なりたい職業1位に夢はあるの?|マンガ感想「夢なし先生の進路指導」笠原真樹
2024年版、小学6年生の「将来就きたい職業」
男の子の第1位は「スポーツ選手」
女の子の第1位は「漫画家・イラストレーター」
(株式会社クラレのアンケートによる)
あ、もうYouTuberじゃないんだ。と
脳内の情報を更新する。
夢のあるランキングだなと思う。
1位が「公務員」よりも、なぜかホッとしてしまう。
子どもが生活の安定を望むより、好きなことを仕事にするという、大きな夢を見られる社会であってほしいという願望があるのかもしれない。
ただ、それは願望であって、大きな夢にどれほどの犠牲が必要なのか、大人は皆、知っている。だから実際に誰かがその夢を口にした時、どこまで応援やサポートができるかは難しい。
例えば、高校生からこの夢を語られた時。なにを伝えてあげるべきだろう。
その問題に、真摯に向き合う漫画がある。
夢なし先生の進路指導
ここに登場する、進路指導の高梨先生は語る。
「私は、生徒の進路を、1度たりとも否定したことはありません。事実と真実を伝えたまでで、それを否定と捉えられるのであれば、その進路選択に問題がある。」
「私達には説明責任がある。」
無責任に生徒の選択を肯定することは教育放棄だと彼は言う。
重い。重すぎる…!
第1巻のテーマは「声優」「鉄道運転士」「メンズアイドル」
どれも好きなことで生きていきたい生徒が、純粋に夢を目指している。
こんな紹介をしてしまうと、夢も希望もない話が続くのかと思われるかもしれないけれど、この作品は夢をそのまま叶えるのとは違う形で、希望を持てるストーリーになっている。
寄り添うだけでは足りない
夢なし先生が不安に思っていても、現実を知らせても、夢を見た生徒は走り出す。そして、挫折を経験する。その姿はつらいけれど、卒業後も先生は手を差し伸べる。
先生のすごいところは、生徒の活躍を全て把握していたり、努力を認めてくれる精神的なサポートだけではなく、先人の知恵を教えてくれるところだ。
キャリア理論家ブリッジズの「トランジション3段階理論」をもとに、
諦め、転機を迎えることは新しいスタートになる。思い切って捨てるものや維持するものを決めること。
と教えるシーンは、大人でも学びがあった。
泥臭いところや、目を背けたいところもしっかり描いているけれど、改めて「自分のなりたい姿」を見つけて踏み出す生徒の姿は輝いている。やりたいことを知り、そこに向かって舵を切ることは大人になっても必要だし、最初の選択が全てではないと知ることも、大切なことだ。
先人の知恵の塊
作品を最後まで読み終わった時、驚いたことがある。
巻末に謝辞と参考文献がびっしりと並んでいたのだ。
今の社会について、職業選択について、それぞれの業界についての文献が何十冊も並び、実際にその業界で働く方や、事務所、鉄道会社などの協力に対するお礼が丁寧に述べられていた。
沢山の文献にあたり、多くの人の声を集め、できる限り誠実に、この職業を夢見る生徒へのメッセージを詰め込んでいるのだと思う。
こんな人に読んで欲しい
この漫画は、子供に勧めるには少し劇薬になるかもしれないけれど、
(今現在、とてもつらい状況にある方にも厳しいかもしれない。できるだけ心が元気な時に。)
こんな方に是非、手にとってもらいたい。
・テーマとなる職業に興味がある人
・子供の進路選択が迫っている人
・自分の将来に不安がある人
・マンガでキャリア理論を学びたい人
夢なし先生が言っていた。VUCAと言われる現代社会は先が見通せないと。
それでも、先人の声を味方につけることで、将来を考えるヒントに出会えるのではないだろうか。
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