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2024年を振り返って - 新規就農3年目で見えたもの

2024年もあっという間に過ぎ、気づけば新規就農3年目が終わろうとしています。「新規就農は最初は赤字が当たり前」という声を聞くたび、この3年間を思い返すと、初年度から黒字を継続し、ありがたいことに順調に事業を続けられている状況です。振り返れば、私の経営者人生は20代後半から始まり、かれこれ12年。これまで3つの会社を立ち上げてきましたが、いずれの会社も創業赤字を出さず、毎年前年の売上を上回る成長を続けてきました。

ただ、花農家としてやりたいことは「前年の売上を超える」ことではありません。「理想を実現するために、どんな手段を組み立て、どう現場で実行していくか」。その一点を見据えて走り続けることが、結局は事業を成り立たせる力になっていると感じています。今日は2024年の取り組みを4つの視点に分けて振り返りながら、「理想と現実を結びつける」ための試行錯誤をお話ししたいと思います。

夏の安曇野農園で一面に咲くルドベキアたち

1. 2024年を振り返る — 理想と現実のはざまで

3年目を迎えた花農家としては、まだまだ試行錯誤の日々が続いています。特に私たちはハウスを保有せず、すべて露地栽培で花を育てているため、天候や気温、降水量など自然の影響をよりダイレクトに受けやすい状況です。台風や長雨が続けば、生育に大きな影響が出ることも少なくありません。

それでも初年度から事業を成長できている背景には、「理想を持ちながら、目的と手段を取り違えず、現実策を積み上げる」姿勢があります。たとえば、冬の仕事を確保したいあまりに温室ハウスを建てること自体が目的化してしまうと、理想とはかけ離れたコストやリスクを抱え込んでしまう可能性もあります。
あくまで優先すべきは「理想の花づくり」と「人材が働きやすい環境をどう実現するか」。そのための投資や行動を見極めてきたことで、露地栽培ならではのリスクはあっても、事業として成り立つ仕組みを継続できているのだと感じています。


2. 常識から離れる勇気 — 沖縄の花と安曇野のわさび

沖縄で花を育てるという発想

ハウスを導入しない代わりに、冬場は温暖な沖縄へ移動して花を育てる。これが“一見遠回り”にも思える私の方法です。定住=農家という固定観念から離れ、場所に縛られない働き方を導入することで、ハウスや暖房設備にかかるコストを抑えられますし、沖縄の気候を活かした花づくりが可能になります。
周囲からは「そんなやり方は聞いたことがない」「農家は同じ土地に腰を据えるもの」と驚かれますが、常識を疑ってみることでユニークなブランドストーリーが生まれ、結果としてたくさんの方に応援してもらえるようになりました。目的はあくまで「理想の花づくり」を途切れさせないこと。そのために、冬場は沖縄という選択は自然な流れだったのです。

安曇野でのわさび栽培

もう一つ、冬季の事業の柱として取り組んでいるのが、北アルプスの清らかな湧水を活かした「わさび栽培」です。花とわさびという組み合わせは一見意外かもしれませんが、私は「美しいものを、美しく育てる」という理念と深くつながると感じています。
なぜわさびを選んだのかというと、安曇野には豊富で綺麗な湧水があり、年間を通じて水温が10度前後と安定しているため、冬場でも過度に石油燃料に頼らず栽培を継続しやすいからです。これによって、自然の恵みを最大限に生かしながらも、環境負荷を抑えた形で作物を育てられます。

わさび作りは花栽培とは勝手が違い、手探りな部分も多いのですが、そのぶん新たな学びや可能性を感じることがモチベーションになっています。安曇野の恵まれた環境を活かしつつ、自分なりのやり方で「理想の農業」を形にしていきたいと思っていますし、花に加えてわさびも“美しく育てる”姿勢を大切にすることで、より多角的な農業のあり方を提案できればと考えています。

2024年から栽培を始めたワサビ

3. ドローンと手作業の共存 — テクノロジーとアナログの両立

ドローンによる農薬散布の挑戦

2024年は、2万㎡を超える花畑をつくることができました。広い面積を露地栽培で維持するのは、天候の読みや不測の事態への準備が欠かせませんが、だからこそ花づくりの醍醐味を存分に味わえます。
そこで選んだ効率化の方法がドローンによる農薬散布です。花農家ではまだ珍しい試みですが、農薬使用量や作業時間といった定量データを把握でき、正しい打ち手に繋げられることが期待でき、「美しい花を、美しく育てる」という理想にも近づけると判断しました。ただ、地域住民から「何を散布しているの?」と不安の声が上がる場面もあり、新技術の導入にはコミュニケーション不足による誤解が生じやすいと痛感しています。

あえて除草剤を使わずに手作業を選ぶ

一方で、除草はすべて人力。ハンマーナイフモアや刈払機といった農業機械の手は借りますが、除草剤は一切使っていません。ドローン導入でテクノロジーを活用する一方、草たちを泥まみれになりながら取り除くのは非効率に見えるかもしれません。

しかし、私たちはそもそも農薬(殺虫剤・殺菌剤・除草剤)をできるだけ使わずに花や植物を育てたいと考えています。害虫や病気対策には最低限の殺虫剤や殺菌剤を使うこともありますが、土壌の細菌を根こそぎ枯らしてしまう除草剤は「自然を象徴する花」を育てるうえで本末転倒だと感じるのです。
花を育てる過程で自然を壊してしまうのでは、花の持つ美しさや意味が損なわれてしまう——そんな思いから、手間はかかっても、人力で草を取り、土や植物とじっくり向き合うやり方を選んでいます。

手作業には苦労も多いですが、その分ひとつひとつの花に愛着が湧き、スタッフも「自分たちが育てたんだ」という実感を得られるように思います。そうした姿勢を見て、「ここで育った花を買いたい」「応援したい」と声をかけてくださる方が増えたことは、何よりの励みです。

2024年はドローンが大活躍しました

4. 農業と農家のイメージを変えていく — これからの展望

「農業って、もっと可能性がある」

「農業=きつくて儲からない」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、沖縄での露地栽培やドローン導入など、一見“常識外れ”に思える手法を試してみると、採算をとりながら事業を楽しむ余地がたくさんあると実感します。
こうした取り組みを積み重ねていけば、農業と農家に対するイメージを少しずつ変えていくことができるのではないか、と私は考えています。既存の枠にとらわれず「理想を形にし続ける」ことこそが、農業の新しい可能性を知ってもらう一歩になると信じています。

挑戦を止めないことと、引き際を見極めること

周囲の不安や反対を受けながらでも、やってみないことには何も始まらないというのが私の基本姿勢です。複数の事業を立ち上げる中で、常識にとらわれず行動を続けてきたからこそ、思いがけない学びやチャンスを得られました。
一方で、突き進むだけが正解とは限りません。勝算が薄いと思えばピボット(方向転換)する勇気も経営者には必要で、正しい努力を積み上げるためには、“どこでやめるか”という判断も欠かせないと痛感しています。

研修生受け入れとコンサルティング支援への思い

就農3年目を迎えた今、私が実践してきた農業経営やブランディングの知見を次の世代に共有できないか、と考え始めました。そこで来年からは農業研修生という形でのリクルーティングも開始し、すでに1名の内定が決まっています(農業研修生に限らず、スタッフは定期的に募集しているので、Instagramをチェックください)。

また、社外に向けてはコンサルティングやブランディング支援という形でも協力してみたいという思いがあります。大掛かりに展開する予定はありませんが、私の経験が必要とされるなら、業態を問わず、農業から花屋経営まで、また内容においても、経営全般、ブランディング、EC運営、さらにはフラワーデザインに至るまで、幅広い分野でお力になれるかもしれません。具体的な課題を抱えている方や、新たな挑戦を模索されている方がいらっしゃれば、気軽に「こんなこと相談できる?」と声をかけていただければ嬉しいです(以下の問い合わせフォームからぜひ)。


まとめ

こうして振り返ると、2024年も「常識から少し外れてみる勇気」を行動に移したことで、農業の可能性を改めて実感できた一年でした。ドローンで農薬散布を効率化しながら、除草はあえて手作業。場所に定住する代わりに、冬は沖縄で花を育てる。どれも“王道”ではないかもしれませんが、そんな選択が新しい景色を見せてくれると信じています。

2025年もがんばります。

YARI FLOWER FARMで収穫した花で束ねたブーケ

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