『悪は存在しない』考察
濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』のラストについて、なぜ巧はあのような行動をとったのか、考察していきたいと思います。
ネタバレ全開ですので、未見の方はお気を付けください。
気になること
なぜ巧は高橋の首を絞めたのか。そしてあのラスト。まずは気になることを冒頭から考えていきます。
仕事の依頼は覚えているのに花のお迎えはよく忘れる巧
お父さんを待たずに先に帰る花
花はほかのこどもたちと話したり遊んだりする描写がないこと
巧は忘れっぽく、でも町の人たちから頼まれている水汲み等大事な仕事は覚えている。だが娘のお迎えという、雪深いこの町でとても大事なことを忘れる。遠い道のり、けがをするような棘のある木々、半矢(はんや、手負いの状態)の小鹿の死骸・・・。ひとりで帰るにはあまりにも危険な道で、学校の先生も花を一人で帰らせている。これには何か理由がなければそのような危ないことは止めるはずだ。
花が寝たあと、ピアノの鍵盤を撫でる巧のシーン。壮健な身体を持ち朴訥な人柄とは違う、感傷に浸っている。その直後に花の母親と花がピアノを弾いている写真が映る。妻の死に巧は大きく傷ついている。花もまた学童にカバンを忘れる。花も深く傷ついていて、まだ普通の生活が送れていない、だから学童の先生も花のお迎えをよく忘れる巧を注意しない、花が一人で帰るのも。
グランピング場計画
東京から芸能事務所の高橋と黛がやってきて、この地にグランピング場を作る説明会する。どうみてもコロナの助成金目的の計画のずさんさ。しかももう土地を購入しているってめちゃくちゃ。
巧のことば、「自分は開拓三世で、だからあなたたちと同じよそ者だ」に感動して涙が出た。
花が行方不明に
東京からきた芸能事務所の、ひどい説明会にも真摯にことばを伝える巧。
しかし花が行方不明になる。
それまでは高橋や黛、そして町の住民たちとのバランサーだった巧は必死に探します。説明会で反発していた金髪の青年も。
すっかり暗くなり、木々を見上げるようなシーンに心が強く揺さぶられた。
翌朝、花が見つかる、半矢(手負い)の鹿のそばで。花ちゃん!と叫び駆け寄ろうとする高橋を巧がその場に倒す。
花はニット帽をとる。鹿に敬意を表すかのように、巧が説明会でニット帽をとった姿と重なる。ゆっくり半矢の鹿に近づいていく花。
巧は高橋の首を絞める。柔道技で絞めて動けなくさせるあの技かなと思ったら高橋は泡を吹いて気絶している。
花のもとへ行くと花は鼻血を出して倒れている。半矢の鹿に攻撃されたのか、それともさきほどの光景は巧が見た幻影なのか(すでに過去のことが見えた)花はその場に倒れており、巧は花の呼吸を確認し、花 と名前を呼びながら抱きかかえ、森の奥へと入って行った。
病院へ向かうのではなく、森の奥へ。
ラストの考察
自分は巧は花の姿を見た瞬間、思考が停止したのだと思います。パニックやヤケを起こしたのではなく、最初は高橋を殺そうとは考えてなかったと思いますが、何も考えられず、巧の中の暴力性が噴出したのだと思います。
巧は妻を亡くしたことからすでに半矢で、冒頭、花と二人で見た半矢の小鹿の死骸を思い起こさせます。
花と二人で死のうと。