見出し画像

NHK短歌への投稿作・10月号

選者:川野里子先生 題詠「氷」
甘づらの氷を食ひし少納言金属椀の冷えを伝へ来
吝嗇にあらずもったいないおばけの君は氷なくなるまで席立たず
蝉氷せみごおりといふおもしろき言葉あり羽化途上の蝉青白く



母を追い出し父を追い出し四方より壁迫りくるごときこの部屋
奈良県 大津穂波さん(山崎聡子選)

助けの手を振り払い、部屋にこもっている。両親は自分に一番近い存在だけど、一番近いからこそ伸ばされた手を疎ましく感じることがある。四方の壁が迫ってきてぺちゃんこになってしまう感覚。どうしたらいいかわからない。自分で自分を追い詰めてるんだけど、そうせざるを得なかった。痛いほど悲しいほど世界でたった一人の自分と向き合っている。半年ほど前の入選歌なんですが、ひりひりして、ちょっと忘れられない作品です。



選者:俵万智先生 題詠「色」
ありがとう赤と黒とを使いわけハートを付けるあなたの本音
ひなあられはチョコばかり食ってたろ出目金だけを狙って君は
明日香村自転車道や日に灼かれ濃き草叢くさむらを焔とまがふ


短歌を初めてすぐにサラダ記念日を買いました。俵万智の歌で圧倒的に好きなのがこちら。

思いきり愛されたくて駆けてゆく6月、サンダル、あじさいの花
俵万智

6月は梅雨時期。せっかくのデートなのに朝からの雨で気分が下りがち、というイメージが見事に覆りました。サンダルが肝なんです。サンダルは夏のデートのアイテムとしてかなり重要なアイテムです。サンダルを履くには足の手入れがかかせない。かかとを削ったり溶かす薬剤、その後に塗るクリーム、爪もきれいにやすりしてオイルや栄養剤塗ったり。自分で手入れが苦手な場合は専門店で結構な金額出してプロに施術してもらう必要がある。そうして、サンダル(+当日の服装)に合う色を塗って、デコりたい人は美しくデコって。

つまりものすごく手間がかかるんです。デートにサンダル履いてきたってことは、ものすごく手間をかけてでも綺麗な足を見て欲しい、つまりものすごくあなたが好きなんだってことです。サンダルにも色々あって肌の露出が多いタイプのものは足の手入れもしっかりぬかりなくしなきゃいけない。要するにあなたとそーなーってもいいですよ、というサインもちょっと含めてる。これ飛躍ではなくそう思うんです、私は。

掲歌、下句の名詞のたたみかけが気持ちの高揚、躍動感にあふれていてうんうん、わかるわ!ってなります。あじさいの花も水たまりにふる雨も何もかもがきらきらして見える。

「光る君へ」何度も文をやりとりしたまひろと道長の初逢瀬の回、まひろが廃屋に駆けつける場面でギターが流れます。ここでギターかよ、青春やん、大河やるなあ! 待ってる道長も気がそぞろ、まひろの姿を見てパアッと表情が変わり、ここでドワッと涙腺崩壊。自分にもこんな初々しい気持ちがあったよねえと、さまざまのことを思う回でした。今のところ私イチオシの名場面です。



選者:大森静佳先生 題詠「こわいもの」
ものがたり脳裏に浮かぶ怖ろしさ大島てるの炎のアイコン
饅頭がこわいこわいと食うてたら肝臓痛くなったよ怖い
いにしへびと呪詛にて人をしいしたまふ一片の真実を含むや


早口で喋れば自分を振り切れる? 胸にミントの葉が浮く夜に
大森静佳

「早口は損口」と思います。どんなにいいことを言っていても早口だと伝わり方が半分以下なんです。いやマイナスかもしれない。早口だと喋ってる人の焦り、自信の無さを感じ取ってしまうんです。口を挟ませないような言い方は、実は本人も疑いながら言ってるんじゃないかなあ?って。早口で喋れば自分を振り切れるとは、おそらく思っていないでしょう。言いたかったことはきっと伝わってない……夜、もやっとした気持ちを抱えながら、ミントで仕切り直しするのです。


選者:枡野浩一先生 題詠「おめでとう/おしあわせに」
いちまいの紙を提出するのみの婚おめでとう青葉さやげる
スピーチが長すぎでしょう椅子も無いし出版記念会おめでとう
朝礼の「今日から苗字変わります」拍手したのち真実を知る

出版記念会を催される方にせつにお願いしたいことがあります。スピーチが長くなる場合は座れるよう椅子を用意してほしいのです。というのも長いスピーチを立ちっぱなしで聴かされるとハイヒールの女性は貧血を起こす場合があるのです。

「ご多幸をお祈りする」と書いてあるメールはみんなうそつきである
東京都 木内一命さん

本当はやりたいことじゃないんだろおめでとうとは絶対言わない
滋賀県 荒本文子さん

タコ焼きに出来不出来あり人間にないわけがないまあおめでとう
香川県 樋口淳一郎さん

枡野浩一選。本音がキラキラ輝いています。掲歌は好きやなあと思ったうちのほんの一部です。やっぱり本音はズドンと来る。人間に出来不出来が、ないわけがない。タコ焼きになぞらえているのは大きな口では言えないから。ワンクッション置いているのがうまい。

何かの賞に応募して落ちた人の「どの作品もすばらしいですが~」との優等生コメントが刺さらない。こっちより自分の作品の方がいいやんって実は思ってない? 思ってるならこのフレーズは書かない方がいいのにともやっとします(あーあ、いらんこと言っちゃった;)。だから、そう書くことによって読者が減るとかのリスクあるかもしれないのに自分の作品の方が優れている! と正直に書く人はすがすがしい。



言葉にすれば虚辞となるゆえ風呂敷に包み提げゆく新酒一本
久我田鶴子

言葉を重ねるほど本音が見えづらくなることって、ありますね。そのような場合、言葉よりもモノ、掲歌でいえば新酒一本の方がずっと誠意が伝わると作者は感じたのでしょう。自分が引用しているのは心から好きな作品ばかりで、毎回すごく楽しんで書かせていただいてるのですが、いろいろ書いてる割りにひとりよがりだし読者に伝わっているかどうか。長く書きゃいいってもんではないとわかりつつ書きたいことが溢れて長くなってしまいます。



こちらも全没だよᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ まあ、しゃあない。次いこう、次!笑