渡せなかった地図、及び漫画のこと
渡せなかった地図
学生時代、書店でアルバイトをしていた。土曜日の昼。混雑時、関西の地図を五冊ほども購入されたお客様がいた。旅行者かもしれない。普段から割と地図が売れていた。今と違いスマホで手軽に経路検索できなかった時代である。
五千円を超える売り上げはそうない。会計し本を袋に詰めながら、こんなに買ってくれてありがとうと思ったのをよく覚えている。客の波が途絶え、ふと見るとカウンターに袋がある。急いでいたのか、お客様が忘れて行ってしまったのだ。
袋はずっとレジ後ろの棚に保管していたが、ついに見えられなかった。あの時の男性のお客様、気づかずに本当にごめんなさい。
えのころや書店跡地の駐車場
NHK俳句には、「季節往来」という読者のお便りコーナーがあります。その月のテーマに沿った300字程度のエッセイに、それに合う俳句を添え、題名も自分でつけます。テーマ:書店で出したお便りが没ったので、お亡くなりになったお便りをここにアップし弔うことといたします。
私はこの頃からアホでまぬけだったようです。私のせいで五千円をドブに捨ててしまったおじさま、本当に本当にごめんなさい。
書店で働く人あるあるに「休憩時間に好きな本を読める」があると思うんですが、上に書いた当時バイトしていた書店でもそうでした。お昼の一時間の休憩中、休憩室で保管している在庫や返品する本を読んでもよいと言われていました。もちろん汚したらダメです。で私、主に漫画をかなり読みました。
本当にたくさん読みましたが中でも印象深かった作品を幾つか挙げます。
ハッピーピープル/釋 英勝
残虐シーン満載です。いじめ殴る刺す撃つ……暴力シーンがめちゃくちゃリアルでお弁当食べながら読んでいて本当に気持ち悪くなったことがあります。ですが人が目を背けたくなるある意味真実が描かれていて、あっという間に読破します。
Happy!/浦沢直樹
YAWARA!と似たキャラクター設定なので同じような話かーと思ったら違う違う、ここまで違う風に楽しませてくれるのはさすが浦沢直樹です。最後、幸は圭一郎と純二のどっちともくっつかず終わっちゃうのね……とはちょっと思いますが、最後までYAWARA!と同じにはしないよという浦沢さんの意志?みたいなものを感じます。
有名な話ですが浦沢さんは小学館の編集者になりたくて就職活動してたのに、持っていった漫画原稿が新人コミック大賞に入選し漫画家デビューしました。もし編集者になっていてもおそらく相当良い仕事、漫画でも文芸でも良作家を幾人も世に出されていたでしょう。
もう同じテイストで描きたくないかもしれませんが私ぜひ、浦沢さんにフィギュアスケート漫画も描いていただきたいんです。モデルは真央ちゃんがいいな。フィギュアスケート界は国内外キャラ濃い人が揃ってますからねぇ。男性主人公でもいいし。もちろん浦沢さん案でどんな設定でどんな風に描いてくださっても面白くなるに違いないのでぜひ!!
メデゥーサ/かわぐちかいじ
読売新聞の書評で紹介されていました。そこでこの4巻の印象的な表紙が掲載されていて興味を持ちました。4巻の表紙が一番好き。赤を基調とした二人の構図、陽子の表情がかっこよくて色気もあっていいんです。本作が初めて読んだかわぐちかいじ作品。ヒロインの榊陽子は連合赤軍・重信房子がモデルです。
陽子は与党大物議員の娘なんですが、父親に男子が産まれず孤児院から同い年の男子を引き取り養子にしたことに反発し、敵の過激派トップへ成長します。ところがその養子、龍男と恋仲になっちゃう。あらすじを聞いただけでも面白そうではありませんか。実際めちゃ面白くて爆読、4巻、中東で自爆したと思われていた陽子に龍男が日本で再会するシーンは台詞なし、かわぐちかいじの画力とコマ運びのセンスで魅せる圧巻の名場面です。
政界の闇がてんこもりに出てきます。与党に不利な証言をする証人が国会証言中に毒注射で殺されたり真実を追う新聞記者がホームで突き飛ばされて電車に轢かれそうになったり。こういうの漫画だから描けるんだよなあ~と思ってましたが実は実際にあったりしてね。って冗談ですよ汗。ラスト原発テロ(未遂に終わる)が起こるんですけど、福島の原発事故の時、メデゥーサ思い出しました……。
もうひとつ忘れがたいシーン。後半で龍男は内閣総理大臣に就任するんですが同時期に陽子は逮捕されます。収監されたら一生出てこれない。陽子に同情した刑事が逮捕前夜、秘密裏に二人を逢わせる画策をします。一晩中船で待つ陽子。でも龍男は現れません。本当は逢いたいんだけど「私情」を殺すんですね。もう自分は内閣総理大臣ですから。諦念しつつ陽子もそれをわかっていて、子供の頃からの夢を叶えた、おめでとう龍男、と胸の内で称えます。言わなくてもわかる、通じる関係なんだとじぃんときました。
政治家としての資質十分なのに陽子が生まれたのは早すぎた、ということなのかな。今だったら政治家の女性の跡取りはふつうにいますから。父親に反発して正反対の方向にいっちゃうのはなんとなくわかる気がします。
女帝/倉科遼原作、和気一作作画
熊本に住む女子高生の立花彩香はホステスの母親を助けるために高校を中退し、自身もホステスとなります。母親が死後に残した手紙(父親が実は生きていて与党大物議員の尾上であるとの内容。後に総理大臣になる)を元に、熊本⇒大阪⇒東京へ、銀座の女帝と呼ばれるまでホステス界の頂点へと昇っていきます。尾上が自分と母親を捨てたと思い込み復讐しようとしますが、実際は身を引いたのは母親の方で尾上は真剣に母親を愛していたと知り、彼と和解します。
女同士のえぐいバトル、裏社会の闇が面白い。こちらでも政界の闇がてんこもりに出てきます。エロ過激描写が満載なので店長(大手銀行を辞めた男性)が休憩室に入ってきた時はなんとなく最初は隠して読んでましたが、巻数が多くて長いので面倒になり最後はふつうに堂々と読んでいました。その頃には店長も読んでいました。
2007年に加藤ローサ主演でテレビ朝日木曜9時のドラマになりましたが、あの過激描写はいったいどうするねん……とわくわくしつつ見てましたらぜんぜん、ぜんぜんゆるかった。当たり前か。残念。