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フランス人形#SS

 小学生時、友人の家の離れでよく遊んだ。八畳の一間しかないここではもう誰も寝起きせず、本や使わない物の置き場所になっていた。たくさんの漫画やなぜか友人の父親のエロ雑誌があり、正直みんなそれを読むのが目当てだった。

 本棚の横にフランス人形の入ったケースがあった。高さ五十センチくらいの大きな人形だ。青い目、緑のドレスに白の豪華なレース。羽根飾りのついた大きな帽子の下に金髪の巻き毛を垂らしている。友人の母親の姉が七五三に、その方から見て祖母にあたる人からもらったものだという。十万くらいしたとか。そうだろうなあ、子供の目からしても相当高価なものに映った。

 おばさんは結婚して他県に移ったが、なぜか人形を持っていかなかった。高価なもので状態もいいし、ということで友人の家族は母屋の居間に飾っていた。ところが人形が笑っているようにみえて怖いと訪問客から言われだした。閉じているはずの口が開いて、歯が見えたというのだ。

 どこから買った人形なのか訊こうにも、曾祖母はすでに亡くなっている。家族にはそんな現象を見た者はいないが、気味が悪いので人形供養で有名な寺に引き取ってもらうことにした。ところが人形を乗せ寺に向かう車が交通事故を起こし、運転していた祖父が左腕骨折の怪我を負った。人形の呪いかと怖くなり、以降この離れにしまったままなのだ。――これが友人の言である。

 ある日離れに行くと友人しかいない。私が一番先に着いたらしい。友人がおやつを用意しに母屋へ行った。残された私は人形を背に漫画を読んでいたが、人形が私を見詰めている気がする。友人の話が怖くて絶対に顔を合わせないようにしていたが、漫画を取り換える際にどうしても視界に入る。
 
 ケースに布をかぶせるとか、後ろ向きにしてくれたらいいのに。そんなことしたら呪われるのかな?……あの話は本当だろうか……。怖いもの見たさで、思い切って人形の口を凝視した。口は閉じたままだが、ケースの中の髪が数センチ上に浮いた。こすった下敷きを髪に近づけると静電気で髪が下敷きの方向に行くが、あんな感じで。

 中学高校と進学するにつれ、友人とは疎遠になった。友人宅の前を通りかかるとあの離れは取り壊され、跡地に梅の木が立っている。あの人形はどうなったろうか。

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