140字小説3編「黴パン・白鳥の湖・ラーメン屋」
黴パン
子供はなぜ食べ残した給食のパンを持って帰らずお道具箱に入れるのだろう。生徒からの密告により英司のお道具箱を開けた先生は黴パンに悲鳴をあげた。ドラマ「JIN-仁-」を見ていた英司はとっさに嘘をついた。「ペニシリンを作ろうと思いまして」。外科医の彼が詐欺罪で逮捕されるのは二十八年後。
白鳥の湖
衣装の一部が落ちれば一点減点との規定はもちろん知っている。でも羽根付衣装を着たかったの。スケートを始めた頃から五輪で滑りたかった白鳥の湖。スピンの途中で羽根が剥がれふわっと浮いたそれをとっさに飲み込んだ。んがぐぐ。斉藤千佳金メダル!しかしずっと嘔吐いておりインタビューできません!
ラーメン屋
ラーメン定食を夫と私で分け合う。おやじが来て「二人分注文して貰わんと困りますわ」私たち失業中で……「そんなら自炊しなはれや、外食は贅沢でっせ」あぁ、一杯のかけそば作戦は通じないか。「次決まってまんのか?よかったら二人とも明日から厨房手伝うてくれまへんか」人情の店の噂は本当だった。