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NHK短歌への投稿作・5月号

選者:川野里子先生 題詠「ひとり」
不参加?の返事は明るく簡潔に「孤独を愛する人間なので」
班決めで一人あぶれた者同士一緒にされてカレーを作る
殺人の動機さまざまその一つぼっちと言われ言わせておけよ


パソコンのファンがざあざあ音たてて私やっぱりひとりになりたい
愛知県 水谷文音さん(5月号)

一読、この人、自分じゃないかと驚きました。誰かと直接、あるいはネットで会話するのも楽しいけど、ふっと思う。私やっぱり、ひとりになりたい。ファンのざあざあ音は自分と外界を遮断してくれているようで、とても落ち着く。「共感」は正しい読みじゃないかもしれませんが、作者と心の一部でつながっているような感覚を持ちました。


選者:山崎聡子先生 題詠「なぜか忘れられない人」
「いい人とすぐに言うのは悪人とすぐに言うのと同じ」パクくん
「あの頃に戻りたいなんて大人にはなるな」高校教師の送辞


かの人のするどきほくろあるところまだこの指は覚えているか
愛媛県 片山一行さん(5月号)

いやあ、これは。かなりきわどい官能歌ですね。恋人の秘所にあったのですね、ほくろが。それをこの指は「覚えているか」って疑問形というよりも詠嘆でしょうね。しっかり覚えているんですよ。忘れるはずがない。あんなに愛した女だから。ひりひりする恋情が哀切に響いて、忘れられない歌です。


選者:吉川宏志先生 題詠「組織」
新聞のリコールの文字くろぐろとわが上長と重ねて見をり
人麻呂は歌人集団あかあかと裏戸を照らす岡井の説は
※もう一首投稿しましたが、掲載は見合わせます。

組織図の末端におり残業後時給と同じ苺パフェ食む
愛知県 中山あゆみさん(5月号)

苺パフェって今だいたい千円前後でしょうか。苺パフェ頼むにも、一時間仕事した報酬と同じ値段なのだといちいち考えてしまう。本当にこれですよ。仕事は組織図の末端にいる人たち(時給の人たち)も含めて成り立ってるのだということを、上層部は忘れないでもらいたいです。毎日見てるんではっきり知ってますが、何倍も多くの収入もらってる正社員と遜色ない仕事します。同一労働同一賃金はぜんぜん浸透していない。非正規は転勤がない等おいしい面はありますけど、それを考慮に入れても全く釣り合ってないと感じます。働く人のモチベどんどん下がっていくよ。いいんか。余談ですがマクドナルド奈良店にアルバイト募集時給アップ990円と壁紙してありました。あと10円くらい上げたらどないや?笑 その10円がモチベ20円分になるのに。


選者:岡野大嗣先生 題詠「続き」
イェスタディ・・オーマイ・・フンフンフンフンイェスタディここで終了
保存して続きは家で仕事しよファイルが眠る透明のふとん
みんな死ね!夕日に叫び疑わず今日の続きの明日があると


すみません。一首目は遊びすぎました。カラオケでいきって「Yesterday」を歌おうとしたが途中までしか歌えずハミングでごまかし結局強制終了する悲哀を表現してみました。


一滴であふれるコップのような人にまた「またね」って言ってしまった
静岡県 桃園ユキチさん(5月号)

またねって言われると次に会う約束をさせられた気になって「心の隙間が少ない状態の人」にとっては負担になる。でもつい、言ってしまうんですよね「またね」って。「今度ごはん行こう」の空虚さと双璧ではないでしょうか。けど、「またね」の方は、まだほのかな愛を感じる。一滴であふれるコップのような人。巧い。

テレビで綾野剛が「約束をするのが苦手」と言ってたんです。「いついつに誰誰とどこそこに行く」と何日も前から決めてしまうとしんどくなるので行くんならいますぐ行くのがいい、と。綾野剛も一滴であふれるコップのような人なのかな、と歌を読んで思いました。


大学の同じ研究室だった後輩の韓国籍の朴くんは大学近くのファミレスでバイトして学費を稼いでいる苦労人でした。私は朴くんと仲良かったのですが、当時、人から親切にされたらすぐに「あの人はいい人」と口に出してしまう私に「いい人とすぐに言っちゃうのは、悪人とすぐに言うのと同じと僕は思いますよ」と言いました。私はかなりの衝撃を受けました。

つまり、何でもすぐに判断を下すのは(心で思うのは自由だけど、口に出してしまうのは)いかがなものか。考えることが大事と彼は言いたかったのだと思います。こう書きながら、今回の記事で結構あけすけに言ってしまってますが;

あれから長い年月が流れ・・・様々な経験をとおして朴くんの言わんとしていたことを、私は理解できるようになりました。宮本輝を読んだことも大きいです。