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NHK文芸選評への投稿作・8月

8/3 短歌 選者:佐佐木頼綱先生 兼題:Tシャツ
Tシャツの襟のくたくた気にしない人と思えば素うどんうまし
模擬店という名の青春おそろいのTシャツなんか作ったりして
「きょう白Tだからカレーは私ちょっと」よかろうカレー色にしてやる


お揃いのクラスTシャツ作っても文化祭の無い秋だった
岐阜県 ひよこ豆さん

文化祭でおそろいのTシャツを作った歌はたぶん死ぬほど届いたと思われます。私もその一人。この歌がたくさんの文化祭Tシャツ歌と一線画しているのは作ったけど着る出番がなくなったということ。時期的にコロナのせい? と思いますが、出番のなかったTシャツはどうなったのでしょうか。自分たちでデザインして自分たちで業者に頼むってのが大人になった心地がしてなんかくすぐったいんです。四十人弱がおそろいのTシャツ着るってのがまた、今から思うとくすぐったい。夏休み前から楽しみにしていたそれを、秋に皆で着て記念写真くらいは撮ったでしょうか。


八月はこの回しかなかったので(再放送があったようですが)これだけです。さみしいので、先日書いた「なんかもうとにかくグサグサくる歌」について。

二十代なかばで短歌を始めた頃、NHK歌壇(当時はNHK短歌じゃなくこの名前だった)以外に何かテキスト欲しいなと思い、書店で手にとったのが「現代短歌の鑑賞101/小高賢 編著」でした。千四百円で手ごろだし、この本、短歌を詠んでる多くの方が持っておられるのではないでしょうか。俳句だったら「現代俳句の鑑賞101/長谷川櫂 編著」ですね。こちらも持っています。

百一人の冒頭が前川佐美雄で、歌群の下に小高賢の解説があります。立ち読みしていて十ページ目真ん中の「前川佐美雄という歌人は、どこか私たちの尺度をこえているところがある。」一文だけでなんて的確に言い得ているのだと感動し、レジに走っていったのです。


いちにちを降りゐし雨の夜に入りても止まずやみがたく人思ふなり
藤井常世

当時、藤井常世さんがNHK歌壇の選者をしていたので、前川佐美雄以外に彼女のページも食い入るように読んでいました。この歌は藤井さんの二首目掲載歌です。決して返ってくることのない思い。延々と地面を濡らしつづけるだけの雨にたとえてこんなに美しい切ない言葉があるだろうかと打ちのめされました。私の内側の雨と重なるようで読んだら悲しくなるのになぜかまた読みたくなってしまう。若い頃の藤井さんも誰かを思って眠れない夜があったのだと、当時の私はことあるごとに藤井さんのページをひらいてこの歌を指でなぞってしまうのでした。

これが人生における記念すべき「なんかもうとにかくグサグサくる歌」第一首目です。今読んでも、こんなに色んな感情の詰まった「思ふ」はないよなあと言葉の凝縮力、言葉の摩訶不思議さに感嘆します。