NHK文芸選評への投稿作・12月
12/2 俳句 選者:藤井あかり先生 兼題:白息
白息の氷る音する唇よ
自転車を牽きゆく犬や息白し
車座の農ら田に散る息白く
母に附く入試校舎や息白し
白息や天上の玻璃渡りゆく
遥かなるところに我や蝉時雨 藤井あかり
昨今の蝉の鳴き声の煩さは時雨というよりも豪雨に近い。その中にあってふうっと意識が途切れ、気がついたら遥か遠くにいた。肉体は蝉声の真下にあるのに。意識が雨にとけていってるような。
12/9 短歌 選者:笹公人先生 兼題:昭和レトロ
マヅラの珈琲三百円になっていた大阪駅前ビル地下一階
大阪駅前昔ながらの喫茶店肘掛けソファに染みつく煙草
「プリン・ア・ラ・モード下さい」今日も言えなかったア・ラ・が恥ずかしすぎて
「120分はテープが伸びる」46分にちびちび録音したベストテン
ファミコンして猫と遊んで夕方でしゃべった記憶がない友の家
戦争で死にたる犬や猫の数も知りたし夏のちぎれ雲の下 笹公人
本当にそうで、犬や猫、そして「すばらしい頭脳の人」「すばらしい芸術家」がめちゃくちゃ戦争で死んだはずなんですよ。中にはアインシュタインとかパスツールとかショパンレベルの頭脳がいたかもしれない。その人たちが生きてたら今頃多くの人が宇宙旅行を楽しめている気がしてならない。戦争は兵器製造で科学技術推進をもたらすという意見もありますが、戦争で命を奪われた「すばらしい頭脳の人」「すばらしい芸術家」がもたらしてくれるはずだった恩恵の方がずっと大きい気がしています。
12/16 俳句 選者:浦川聡子先生 兼題:手袋
手袋の左失くして右を捨つ
右左違ふ手袋登下校
休憩の珈琲手袋裏返す
溶剤に溶けし手袋常夜灯
手袋の赤黒跳べり鶴跳べり
校正者冬の銀河を見るときも 浦川聡子
校正者というのは星座を見上げるときも「あの星がもうちょっと右にずれていたら完璧な正三角形なのに」とか「蝿座って・・・黄金虫座とは名付けられなかったのかしら」と考えているのかもしれません。ロマンチックぽくないのが面白い句。
12/23 短歌 選者:遠藤由季先生 題詠:甘い食べ物
アルファルト道路でこけた味がするカカオ99%のチョコ
餅出してきな粉砂糖で食べるんや奈良の雑煮がなんでおかしい
お雑煮の金時にんじん濃く甘く山盛りよそう里芋よけて
おふくろの味の一つに隠し塩隠れていないぜんざいがある
一週間干した人参舌の上で冬の太陽ふくらみゆくなり
乱視にて見上げる月の膨らみぬいにしえびとの月かも知れず 遠藤由季
私も乱視なのでよくわかります。そう、月がぼや~んと膨らんで見えるんですよね。古代の月への昇華が美しい。現代に比べて昔は月の実態が定かでなかった分、月にかける思い、想像力が段違いに強かったでしょうから、膨らんでみえたとしてもそうだろうなと思う。
Xの方でも文芸選評のある毎週土曜~月曜あたりに、拙いですが感想を書かせていただいてます。
大阪駅前第一ビル地下一階にある喫茶店マヅラ。通勤でこの界隈に通ってた頃、マスターの劉盛森さんが入り口に立って大きな声で「いらっしゃいませ!」と挨拶されているのを何度もお見かけしていました。TBSの記事の時点(昨年)でなんと御年101歳でいらっしゃいます。
入口には誰もいない方が客は入りやすいのでは、と最初思っていたのですが、この記事を読んで劉さんの喫茶店にかける熱い思い、お客様への感謝の気持ちが体現化されているのだとよくわかりました。
休日の昼頃には昨今の純喫茶人気で行列ができています。最近行っても劉さんの御姿は見られないのですが、お元気であられることを願っています。
手作りケーキセット(12月はシュトーレン+珈琲)を注文。税込み500円。単体はそれぞれ300円です。生地が密だしスパイスの香りが効いていて、とてもおいしかったです。プリンアラモード(700円)もありますが今日も頼めなかった、、、また次回。
この砂糖壺や珈琲に添えられたミルク壺、シュトーレンの飾りフォークに古きよき純喫茶の風情があります。すぐ近くにはドトールやホリーズカフェがあるカフェ激戦区(この2店もよく利用しますが)、マヅラはずっと珈琲250円でしたが現在300円に値上がりました。昨今の世情を考えると仕方ありません。
帰り際、レジのお姉さんが「よいお年を」とにこやかに声掛けしてくれました。商売では当たり前の台詞かもしれません、しかし私の心は何かあたたかいものに満たされた。マヅラはずっと愛される店であり続けるでしょう。
ブラックが定番のわれもミルク壺ちょちょっと傾けまろき渦つくる
スパイスの濃きシュトーレン聖誕祭