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緑の逃走線たち

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種を植えず蒔きもせず、点を作らず線を突き刺す。 (ノーディレクションな旅の後悔や傷をポスト構造主義的に肯定する試みです。)
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記事一覧

アリススプリングス①

 砂漠の夜は寒い。まだ日が明ける前の早朝、街道を進む車は少ない。点在する街灯と星空が照ら…

Takagi Akira
2か月前
3

二年目の始まり

 タスマニアでの第二の青春期を経て、私は恋人と二人の友人と共にオーストラリアの内陸を目指…

Takagi Akira
3か月前
3

タスマニアスケッチ①

この仕事は  ブリスベンの話を書き終えて、タスマニアの話を書こうとした。しかし、タスマニ…

1,000
Takagi Akira
3か月前
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坂の多いまち 其の二

 新しい生活に慣れ始め、無くしたものが残した穴を時間の垢が埋め合わせた頃、私はロッククラ…

Takagi Akira
1年前

坂の多いまち 其の一

 坂の多いまちだった。  中央の駅から長い坂を登って街を抜けると、公園の中を突っ切る長い…

Takagi Akira
1年前
2

再領土化

 これまで初めての海外渡航から異国での農業生活及び共同体の崩壊について綴ってきた。しかし…

Takagi Akira
1年前
2

 私がこのファームに来る数ヶ月前、大きなハリケーンがこの地域を襲ったらしい。その影響で苗の出荷が遅れ、全体の工程も遅れたと聞いたのは、働き始めてしばらく経ってからのことだった。  その頃には、ファームハウスにも見知らぬ顔が増え、チーム内に幾つかのグループが出来ていた。そのような状況の中、誰が同じチームで誰が他のチームなのか明確に区別できている人間は少なかった。  今シーズンの最古参となっていた私は、新しく加わったメンバーの送迎やオリエンテーションを任されていたので、それなりに

シットパンツ

 可奈は上半裸の聡を見つけた。彼の左脇にはサッカーボールが抱えられ、快活な笑顔で誰かと話…

Takagi Akira
1年前
3

擬態 其の二

 私は静江、滋賀県出身の19歳。私はバックパーカに憧れていた。それで高校を卒業してすぐにニ…

Takagi Akira
1年前
2

もしあの時

「麻衣子、週末ブリスベン行かない?」 「いいよ、八重子さんも行きたがってたよ」  健が麻衣…

Takagi Akira
1年前
2

集る

 ある日、私は他のチームの人々が集まるコンテナーの前に居座っていた。彼らのチームには過去…

Takagi Akira
1年前
1

官能

 イチゴ農家では収穫時にトロリーと呼ばれる台車が使われる。座面と荷台と屋根(多くは布が朽…

Takagi Akira
1年前

小休止

 畑での仕事を終えると、私はチームメイトを乗せて車を走らせる。基本的には同じファームハウ…

Takagi Akira
1年前
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所有

 早朝五時。あたりはまだ暗く、冷たい空気が上空から地面までぴたりと満たし、土を圧し固めただけの道路に霜を立たせていた。私のワーキングブーツだけがその空間で唯一、この静寂を乱す存在に思われた。  車のエンジンをかける。もうこの動作にも慣れたものだ。当初のような心のざわめきはない。無骨なこの車体を私はずいぶん手懐けられたと思う。  社内を暖めながら皆の到着を待つ。眠たい眼を擦りながらまばらに集まり始めた人々は、その多くがアジア系の顔つきをしており、ほとんどが台湾人と日本人だった。