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ハロワで紹介された闇バイトが「サスペリア」と「半沢直樹」な世界線だった話

はじめに

(注)*タイトルの「闇バイト」は比喩ではありません。

コロナ禍の202✖️年2月頃、ハローワークで仕事を紹介してもらった。
「ハロワの仕事にロクなのはない」とよく聞くが、業務内容+求人で検索するとハロワの案件も引っかかってくるから仕方ない。
副業として経験のあるTOEIC講師のバイトだった。

ビジネスパーソンや学生さんのスキルアップにも貢献できる、やりがいのある副業だ。
経験年数も充分だったので、ハロワで紹介状を貰って面接を受けてスムーズに採用された。
週に2日だけ数コマ程度の軽いバイト、のはずだった。

ところが蓋を開けてみると、

そこはとんでもなく大きな悪事が行われ、閉ざされた恐ろしい世界だった。
まるでダリオ・アルジェント監督のホラー映画の古典『サスペリア』みたいだ。

サスペリアの展開と同じように「死者」も出た。(病死だと聞かされたが)

「闇バイト」と聞くと、みんなオレオレ系のわかりやすい特殊詐欺や強盗を思い浮かべる。

しかしもっと巧妙で、世間の目からわかりにくい「闇バイト」も存在するのだ。

『サスペリア』と同じように、世間からもよく知られた名の「学校」で、多分その名を知らない人はいないだろう。

彼らのやっている「悪」は、今もまだ脈々と続いている。
死者だってひとりではないかもしれない。
ほとんど「魔術」と言えるほどの「巨大な力」に守られ続けている。

ぜひゴブリンによる「サスペリア」のサウンドトラックを聴きながらお読みいただけるとありがたい。


Ⅰ  面接に向かう時の不吉な感覚

自戒として言いたいのは、何かをやろうとしている時

「なぜかわからないが、嫌な感じがする場合はやめておく方がいい」

ということだ。

また物理的に、自分のせいではなく「そこ」に向かう妨げになるようなことが起きた場合、何かを予兆している可能性がある。

私の場合は、この「闇バイト」の面接に向かう時、あらかじめ「乗換案内」で調べて、余裕たっぷりの時間で家を出た。

にもかかわらず、なぜか信号機故障などで電車や乗り継ぎが大幅に狂い、あと少しで面接時間に遅刻するところだった。

冷や汗をかきながら現地に到着した時、心臓は文字通りバクバクだった。

面接官はふたりの女性だった。

A学院は、B大学の構内の建物の中に所在し運営されている。

「あそこ」に近づくと妙なことがある、と思ったのは、その時だけではない。

内定後の研修時にも原因不明な「唐突な腹下り」として起き続けた。

こうした現象は『サスペリア』で言えば、冒頭で主人公のスージーが空港に着いた時、ひどい雷雨だったのに似ている。

「予兆」には気をつけた方がいい。

Ⅱ  すり替えられた「業務内容」

私がハロワで紹介されて応募したA学院での仕事は、

B大学の学生向けの課外授業の「TOEIC講師」だった。

しかし内定後、幾度かの「研修」を経て実務として振り当てられたのは、なぜか

B大学本科の英語の授業だった。

ここに「闇バイト」の手掛かりとなる最初のからくりがある。

A学院の代表取締役社長は、B大学の学長なのである。

この業界に詳しい人なら、この時点で重大なコンプライアンス上の問題が起きていることにお気づきだろう。
しかし、当時の私は「何かがおかしい」と薄々思いつつ、ベルトコンベアのように流されていった。

言い訳がましいが、これには他にも理由がある。

とにかくA学院に加えてB大学からも次々と指示が来て(無報酬=サビ残)業務が多すぎたのだ。

A学院から渡された「業務マニュアル」には

「A学院からの業務指示だけでなく、B大学からの指示にも従うこと」

と記載されていた。

「B大学のイントラネットには毎日アクセスしてチェックすること」

週2日、たった数時間のバイトのはずだったが、実際には睡眠時間が削られるほどだった。

でも自分のやっていることが「闇バイトかもしれない」とまでは、想像していなかった。

Ⅲ  疲労困憊と積み上がるサービス残業

長い経験上、TOEIC講師の副業をしていると業務委託契約であれ直接雇用であれ、多少なりともサービス残業はあった。

教育業界がブラックであり、ブラックであることを許容されてきた悪しき慣習のせいだ。

しかしA学院からの業務指示のメールは、週2日の出勤日以外も毎日のように来た。
その内容は、一般的に授業に付随する作業の枠を超えていた。

教室に不備があり、B大学の教務課が出てきて紛糾したせいで余計な雑務が増え、契約上仕事のない日まで後処理に時間を費やすこともあった。

1週間で、賃金が支払われている時間の5倍も働かなければならなかった。

サービス残業というのは正社員の仕事ではよくあることだが、単なるパートタイム契約でここまでとは常軌を逸している、と感じていた。

実際キツかったが、心底恐怖を感じたのは、

ひとりの「死者」が出た時からだった。

Ⅳ  同僚の不可解な「死」

大学時代に授業をサボったり、寝ていたり、コソコソ他のことをしたりするのは、どんな優秀な学生でも経験がありそうな出来事だ。

その点から見ても、このB大学は勉強が得意ではない学生を高額な授業料によって受け入れ、「大卒」の称号を与えている大学だ。

にもかかわらず、A学院の当該事業所トップ(以後、女学院長と呼ぶ)は講師たちに無理難題を押し付けていた。

「寝ている学生は放っておかず、何としても起こして、ちゃんと授業を受けるようにさせてください」

しかも、アカハラにならないよう叱責してはいけないし、むろん身体を揺さぶって起こすのもダメ。

また授業への欠席が続く学生に対しては、当人宛てに出席を促す電話をかけなければならない業務もあった。

業務場所であるB大学のキャンパスは広い。

その中のある建物に所在するA学院のオフィスまで歩いていって、それから当該学生の個人情報を調べてもらって、電話をかけはじめる。

中には電話口で延々とモメる学生もいた。

ひどいブラックバイトだと思い始めた頃、事件が起きた。

先輩に当たる同僚のひとりが死亡したのだ。

正確には、死亡したのは自宅でだったが、具合が悪くなって倒れたのは業務中の教室だった。

しかし女学院長の判断で救急車は呼んでもらえなかったと同僚から聞いた。

(女学院長が「B大学にご迷惑をかけたくないから」らしかった)

昏倒した同僚を女学院長が強引に自家用車に押し込んで家まで運んだのだが、その後亡くなったという。

持病があったことから、事件は「病死」ということで片付けられた。

「死人に口なし」が、こんなにもリアルな言葉だっとは。

こうして、私は気づいたら「魔世界」にいた。

ホラー映画『サスペリア』の筋書きと実によく似ていて、ゾッとすることが他にもある。

Ⅴ  ひょう変した女学院長

そのひとつは、映画と同じように私もある時点まで「女学院長」には気に入られていたという点だ。

ところが一転、ある事件を境に「気に入らない存在」として敵視され、排除されることになった。

きっかけは「授業中の居眠り学生を起こす業務」において、女学院長にとって想定外の言動を取った学生がいたためだった。

たまたまその学生の担当が私だった。

私が女学院長の指示通りに「居眠り学生」に対応したところ、思わぬ反撃が返ってきた。
学生が屁理屈を捏ねて女学院長宛てにクレームを付けてきた。

女学院長はA学院のオーナーであり、われわれの職場であったB大学学長を崇拝し、文字通り「ひれ伏して」いた。(まるで『サスペリア』でマダム・ブランが創立者のへレナ・マルコスを崇拝していたように。ちなみに、このへレナ・マルコスは映画の最後の方に登場するのだが、私が出会った実在のこの女学院長にそっくりなのだ。

だから彼女はどんな些細なことであれ、B大学との間に問題を起こしたくなかったのだ。

A学院が送り出した一介の講師である私が、B大学の学生の不興を買ったことで騒ぎが多くなった場合、自分が責められるかもしれないと考えたのだろう。

この些細な一件の全責任を、まだ業務を始めて2ヶ月の私に押し付けて逃げ切ることにしたようだった。

女学院長による苛烈なパワハラが始まった。

Ⅵ  「スパイ」による行動監視と脅し

もし会社や組織に勤務していて「就業規則」や業務マニュアルを「ちゃんと」読んだことがない人がいたら、宝くじの当たり番号を調べる時みたいにしっかり見た方がいい。

もちろん労働契約書や付随契約のたぐいも必読だ。
副業のアルバイトだった私は「就業規則」を見ることはついぞなかったが、業務マニュアルは初めから最後までしっかり読んだ。

するといくつもの不可思議な項目があった。なかでも不思議だったのは、

「B大学の講師控室において自分が担当するコマ数の話をしてはならない。
これを破った場合、雇用契約の途中解除もあり得る。」

すでに述べた通り、A学院はB大学構内にある。

しかし講師の詰所である場所からはかなり遠い。
女学院長をはじめA学院スタッフは常に自分たちのオフィスに居るのに、離れた建物の一室で講師たちが話している内容がどうして把握できるのだろう?

からくりは簡単で、要は私たちのようなお抱えの講師の中に女学院長の監視役=「スパイ」がいたのだ。

このスパイの存在については、ある日先輩の講師が教えてくれた。

そして実際、私が控室で人と話をしていた内容がそっくりそのまま女学院長に報告され、直々に呼び出しを受けたこ都によって立証された。

「スパイ」とは言っても、実際にはダニエル・クレイグと似ているのは年齢だけの、どこにでもいるような気の小さそうな中年男性だった。

彼は常に講師控室で同僚たちの言動に聞き耳を立て、密かに観察し、少しでも「まずいこと」があると、女学院長に報告する役割を担っていた。

「まずいこと」とは何かというと、上述したような「担当コマ数」の話の他、服装や靴下の色柄が派手目だとか、そんな禁止事項だった。

靴下が派手だからという理由で、解雇する職場があることを初めて知った。

Ⅶ  失禁の恐怖に耐えた80分

女学院長から受けたいちばん苛烈だった叱責は、帰宅しようとしてたある日突然、都合も聞かず会議室に閉じ込められた時だ。

提出物があってA学院のオフィスに立ち寄った際、帰宅前にトイレに寄ろうとしていたところ、女学院長に突然呼び止められた。

その頃すでに女学院長の私に対する言動は苛烈を極めていたので、すっかりいわゆる過敏性大腸炎というのになっていて、常に腹の調子が悪かった。

状況を察した他のスタッフが察して間に入ってくれようとしたが、女学院長はそれを阻止して、無理やり私に会議室に入れと命じた。

それからずっとほとんど言いがかりとしか言えないような、返答に窮するような叱責を延々繰り返し、机を叩いたり時には声を荒げるなど1時間半近く詰められた。

何しろトイレに行く直前に拉致されたのだ。
とにかく腹の調子が悪すぎて、失禁する恐怖でいっぱいだった。

状況が不条理すぎた。
涙が流れてきたが、それを見た女学院長はニヤッとしていた。

私がA学院を追放されることは決まっていた。
けれども女学院長の言動からして、それ以上のことをされる可能性もあった。

「ここから早く逃げ出さないと」

その一心だった。

なにしろすでに「ほんとうに」死者が出ている職場なのだ。

『サスペリア』のスージーのように留まって悪と対峙する選択肢はなかった。

でもここで、スージーに代わって新たなヒーローが脳裏に浮かんだ。

…半沢直樹だった。

Ⅷ  『サスペリア』改め、『半沢直樹』

本当にヤバい職場だったら、しのごの言わずに直ぐにバックれるのが一番だ。
副業で浅い関わりだったら、なおさらだ。

死亡した人について、時折同僚たちは怯えながらヒソヒソ話をしていた。

A学院(とB大学)に対しては、底知れない不気味な「得体の知れなさ」を感じていた。

この頃になると、私はこの勤務先は「学校」でも「会社」でもなく

「囚人」として「監獄」に通勤しているような気分だった。

本当に監視活動をしているスパイ=看守がいたせいもある。

周囲を見渡してみると、ここの職場にいる同僚たちはみんな暗い表情をしていた。

生気のないゾンビのような雰囲気の人が多かった。

私の頭の中は、どうやって脱獄するか?でいっぱいだった。

業務マニュアルや雇用契約書には、労働法の規定に反する項目が多くあった。
⑥に挙げた有期雇用契約の中途解除もそうである(有期契約の場合、上記のような理由での一方的な解除はできない)。

一日も早く辞めたい一心だったが、雇用契約書には「学期の途中での退職の場合、引継ぎ業務が追加で発生する。なお賃金の支払われない」とある。(この「賃金は支払われない」は明らかに違法ですね、と後から労基や弁護士はニヤッとした。)

女学院長の言動から見るに、そればかりか、A学院とB大学に損害を与えたとして、損害賠償請求される可能性も考えられた。

いつ、どうやって辞めるのかを探るために、労働基準監督署と何人かの弁護士(無料相談と有料相談)に相談を受けた。

(当時はまだモームリみたいな退職代行会社はそこまで世に知られていなかった。)

労働問題の専門家の見立てとしては、辞めること自体は2週間後でも契約書記載通りの1ヶ月前でも問題なかろうとのことだった。

それ以外に法的なトラブルの種類としては

・サービス残業(未払賃金)
・女学院長によるパワハラ

の2点に分けられた。

合計6人ほどの弁護士に相談したのだが、サビ残についてはほとんどの弁護士が「一定額は受け取れそう」だが、パワハラの方は戦うのは難しいだろうという見解だった。

そして、共通して肝心なの点は、案件全体としての「経済的利益」があまりにも少ないので、弁護士として受任したくないということだった。

となると、自分ひとりでできることをするしかない(半沢直樹みたいに)。

でも、ここでもまだ「闇バイト」疑惑までは見えていなかった。

私だけでなく、弁護士たちの中にも誰ひとり指摘できる人はいなかった。

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