界のカケラ 〜55〜
どのタイミングで話しかけようか。お姉さんという言葉が出てきたらか、遊んだ内容が出てきたらか。この選択によって反応が変わってしまうかもしれない。どちらか迷ってしまうが、ここはゆいちゃんがヒントをくれた「お姉ちゃん」の単語が出たら話しかけることにした。
「大きな公園への遠足・・・ 楽しかったな・・・ お菓子の工場も楽しかったな・・・ 甘い香り・・・ おやつももらった・・・ 車の工場も楽しかった・・・ 定規をもらえた・・・ 」
待っているときほど出てこないのは良くあることだ。この不可解な現象をこの時ほど恨めしいと思ったことはない。早く出てこないか気持ちだけが先行していく。こういうときに気をつけたいのは自分のことだけを考えて突っ走ってしまうことだ。単語だけに集中しすぎて話の流れや分脈、間などを読み取れなくなってしまう。きちんとこれらを踏まえた上で聞き返さないとチャンスをふいにしてしまう。何度も自分に言い聞かせてはやる気持ちを抑えているようにした。
「お姉ちゃん・・・」
ようやくこの単語が出た。長かった。あれから十分以上過ぎていた。あとはどういう流れになるかだけだ。慎重に耳をすませてこの後の展開につなげていこう。
「いつも笑っていたのに・・・ なんで死んじゃったの?」
なんてことだ。お姉さんは死んでしまってこの世にもういない。生きていればお姉さんのことを深く知ることができたのに、彼が子供の頃の記憶でなくなっているということは深く探ることはできない。子供の記憶は曖昧な部分が多いから一気に難易度があがってしまった。
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