akira

頭の中でイメージされた物語を表現するために小説を書いています。 もし気に入ったならスキやシェア、フォローをお願いします。

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マガジン

  • 花を生ける

    花を生けることは瞑想効果をもたらします。心と精神の安定からビジネスに生かせる「花を生ける」ことの効果を書いています。

最近の記事

界のカケラ 〜125〜 エピローグ

 あれから一ヶ月過ぎたが再発していない。  仕事にも順調に復帰し、一週間ずつ勤務時間を長くして、ようやく今日から通常勤務に戻る。  怪我をした日からの十二日間を私は忘れることはないだろう。  特に最後の二日間は信じられないことを信じるしかない経験をした。医者というよりも一人の人間として考えさせられるものであった。人の生死を扱う医師の仕事が命を救うこともあれば、命が救えない不可避のものが必ず存在していることを察するには十分であった。  それでも医療の進歩に付いていき、人を

    • 界のカケラ 〜124〜

       この世には生死を測る天秤があるのだろう。  私たちの世界と魂の世界の狭間に天秤が置いてあり、そのどちらかのカケラが多くなって生きようとするのか死のうとするのか、また生き続けるのか死ぬのかが決まってくるのだろう。  いや、それは違うかもしれない。  この世に生を受け存在した時には生の世界の皿にはカケラが大量にあり天秤は振り切れている。そして、同時に死の世界にも一定数のカケラが存在する。  私はこのカケラを”界のカケラ”と呼ぶことにした。  この世で生きていく中で私たち世界

      • 界のカケラ 〜123〜

         今、目にしている光景は不思議だ。  二人の魂の姿が私たちと同じように同化している。  しかし目に見えているのとは裏腹に、私たちの生きている世界と二人の魂の世界にははっきりと境界線があるように見える。正確に境目があるというわけではないのに、空間がずれているように見える。その境目を見分けることができるのは、スピリチュアルなものを見分けられる人にしか出来ないはずだ。  だが、私にはこの光景が見えるのは最初で最後だと思っている。  今回は私の魂であるゆいちゃんが、生野さんと響

        • 界のカケラ 〜122〜

           辺りを見回したが、音の元になるものはなかった。 「何の音だろう?」  その音は止むことなくずっと聞こえていた。  これだけはっきり音が聞こえるのだから、他の人も聞こえているだろうと周りの人を見たが、まるで聞こえてないように見えた。 「これはもしかして私だけに聞こえる音なのか?」  そこでハッと気付いた。 「この音は飛んでいる音ではない。  この音は生野さんが話していた、カケラがなくなっていく音だ。風化していくように徐々に砂のような粒子になっていく音。  だから

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        • 花を生ける
          2本

        記事

          界のカケラ 〜121〜

           小さい子供が大人に向かって、矢継ぎ早に話すのと同じように話していた。それが楽しくて相手のことを考えずに一方的に話し続けている姿は、側から見るとおじいちゃんと孫のようになっていただろうと思う。  昨日初めて話した、それも数時間だけなのに、なぜこんなにも話してしまうのだろうと私でも思っていた。話し始めたら懐かしい感じがして、いつまでも話していたい。  でもそれができる時間は刻一刻と短くなっていった。 「なあ、四条さん」 「はい。なんでしょうか」 「もし私が死んだら、棚

          界のカケラ 〜121〜

          界のカケラ 〜120〜

           今になって自分が医者になる決心をつけた頃を思い出すとは思わなかった。忘れていたわけではないが、あの頃の私はまだ弱かった。  いや、今も弱いのは変わっていない。弱さを隠す方法がうまくなっただけだ。  経験を積めば積むほど隠す方法が多くなり、自分でも気がつかないうちに弱さ自体を否定してしまう。弱さを出せることが強いことだと誰かが言っていたが、その強ささえ仮初めのものかもしれない。  別に強くなくていいのだ。  生野さんも強いわけではない。ただ自分本来の姿でいるだけだ。それこ

          界のカケラ 〜120〜

          界のカケラ 〜119〜

           あれは大学六年になって臨床実習二年目になった夏に差しかかる前の蒸し暑い日だった。その日は実習が午後からだったので、午前中は家で実習の内容を復習しているときだった。  祖母の部屋で大きな音がした。急いで向かってみると、祖母が苦しそうにして床に倒れていた。痙攣も起こしていて、今にも意識がなくなりそうだった。  医学部で五年弱学び、うち一年は臨床実習をしているのに、その状況を見て怖くて動けなくなった。応急処置と蘇生措置をしなければいけないのに足が動かず、手足も震え、頭が真っ白に

          界のカケラ 〜119〜

          界のカケラ 〜118〜

           生野さんに残された時間はわずかだろう。  そのわずかな時間を私と共有してくれることに感謝の気持ちが生まれた。この時間をかけがえのない時間にし、記憶という無限の時空間に残していきたい。 「生野さん、お話というのは何でしょうか」 「ああ、話というのはな……」  生野さんが話し出しそうとしたら、あの音が聞こえてしまった。  カラン…… カラン……  自分の時に聞いた音とは思えないくらい大きな音が聞こえた。 その音に驚き、辺りを見回した。 「そうか……  四条さんにも

          界のカケラ 〜118〜

          界のカケラ 〜117〜

           たった二階上と三部屋しか離れていないのに、恐ろしいほど遠くに感じる。昨日はあっという間に生野さんの部屋から私の部屋まで着いたのに、今は無限回廊のようだ。歩いても歩いても一向に着く気配はない。  気の早りが感覚をおかしくしているのを冷静に受け止めていた。それが余計に感覚をおかしくしていることにも気づいていた。ただ私にはどうしようもなかった。  階段を駆け登っているときに足を引っ掛けて転びそうになったが、なんとか踏ん張り二階上の階段まで登りきった。  階段の上にはさっき話

          界のカケラ 〜117〜

          界のカケラ 〜116〜

           人の帰りを見送るのは、私にとって難しいことの一つだ。  仲の良し悪しに関わらず、サヨナラをして相手が振り返らない限り、相手を引き止めてしまう。その割に話すことを考えておらず、お互い気まずい思いをしてしまう。この癖は大人になった今も変わらないでいる。  この癖は、幼少期に両親が仕事で出かけてしまう寂しさから生んでしまった。朝早く出掛けて、夜遅くに帰ってくるので両親と話す時間がなく、朝の時間を逃すと話せないことが多かったのが原因なのは自覚している。  自覚しているなら注意

          界のカケラ 〜116〜

          界のカケラ 〜115〜

          「それでは先生、もうすぐお昼の時間なので病室へ戻りますね。引き続きよろしくお願いします」 「はい。私も諸々の手続きをしておきます。こちらこそよろしくお願いします」  二人を見送るためドアへ向かった。  見送りながら私は楓さんが話していた時に引っかかっていたことを思い出した。 「あ、そういえば楓さん」 「はい、何でしょう?」 「お義母様が話されていた時、命を絶とうとした日の九時に驚いた反応をしていたと思うのですが、あれは何で驚いていたのですか?」 「あ、あれですか

          界のカケラ 〜115〜

          界のカケラ 〜114〜

           ゆいちゃんと別れても悲しい気持ちではなかった。きっとすぐに会えると思ったからだ。  掛け布団に頭をうずめていた私は、その状態で目の前にいる二人を見た。私の方を見ていなかったのが幸いで、二人とも下を向き合って無言の会話をしているようだった。  ゆいちゃんと話した内容を教えてはいけないから、この二人と関わるのはこれが最後になるかもしれない。今の様子を見ている限りでは、もう心の傷も綺麗に縫われて治りかけている。まだまだ時間は必要だろうが、病院でできることはない。後は日常生活の

          界のカケラ 〜114〜

          界のカケラ 〜113〜

          「だけなんだって……  ゆいちゃんって、たまに淡白になるよね」 「魂なんて、みんなそういうものだよ。自分の課題をクリアするために人の体を持って生まれて、いろいろな経験をしていく。そのために淡白なくらいの方が吸収しやすいからね。  それに魂が意思を持ちすぎてしまうと、人の体は不完全さに拍車がかかって周りとうまくいかないことが多いから。たまにいるでしょ? 人間らしくない人」 「いることはいるけど。それって育ってきた環境のせいかと思ってた」 「それだけじゃないっていうことだ

          界のカケラ 〜113〜

          界のカケラ 〜112〜

           部屋は爽やかでキラキラと光り輝く風が、意識を持って流れているようだった。  その様子を眺めているうちに睡魔が急に襲ってきた。特に眠い訳ではなかったのに、なぜだろうか。深い眠気が体中の力を抜いていき、次第に腰掛けていたベッドに横たわってしまった。  二人がまだいるのに失礼な格好になってしまったが、自分でもどうしようもないので、あとできちんと説明しておこうと思った。 「かおるちゃん、私の声が聞こえる?」 「ん? ゆいちゃん? ということは、私はまた意識をなくしたんだね」

          界のカケラ 〜112〜

          界のカケラ 〜111〜

          「お義母さん……  私も知りたいので全てお話ししていただけませんか?」 「わかりました。そこまでおっしゃるなら。  ただ私にもよく分からないことだらけで、もしこの話をして頭のおかしな人だとは思わないと約束していただけますか」 「はい。約束します。  楓さんもそうですよね?」 「はい。約束します。  お義母さん、全てを話してもらえないでしょうか」 「わかりました。では包み隠さず全てお話しします」  思ったよりもすんなりと全てを話してくれる展開になった。少し拍子抜けてし

          界のカケラ 〜111〜

          界のカケラ 〜110〜

           ポットのお湯が少なかったが、どうにか一人分くらいはあった。ここまでの流れを切らさずに、真相を聞けるチャンスが続いていたことに安堵した。普段ならティーバッグのものを入れるのだが、今回は来客用に買っておいた茶葉を用意した。専用のポットに茶葉を入れてお湯を注いでいる時間が長く感じているのは、私の気が早っていることを感じさせるには十分だった。  しかし私はここで思いがけないミスを冒してしまった。  お茶といえば湯呑みか取手つきのカップに入れるものだが、気が早っていたがために間違

          界のカケラ 〜110〜