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界のカケラ 〜46〜

 「市ヶ谷さん、私はあなたが命を粗末にするような人には思えません。今までの言動は共感できるかといえばできないことの方が多いです。でもそれはそれをしなければ市ヶ谷さんという人格が壊れてしまいそうだったからではないのですか?」

 「私が壊れる?」

 「はい。自殺をしようとする人は必ず理由があります。普通に生きている人がいきなり死のうなんて考えて死ぬことはまずありありません。だから市ヶ谷さんが死のうとしていたのは『何をしても意味がないことを淡々とやる』ことで壊れてしまいそうな状態にあった。だから本当に壊れる前に擬似的に壊そうとしていたのではないかと思うのです」

 「四条さん、なぜそう思うのですか?」

 「はっきりとはわからないですが、市ヶ谷さんの中に『生きる理由』があった。だけどそれは壊れてしまいそうな状態では見えないものだったから、死ぬリスクをとってまで一度壊してしまおうとしたのではないかと。それが睡眠薬を大量に飲むことに繋がったんだと思います」

 「そんな突拍子もないことを信じられると思いますか?」

 「確かにそうですね。でも、私たちの話を今日偶然にも隣のベンチで聞いたことで心が動き出したのではないでしょうか?
生野さんには生きる理由があったことで、そのことから市ヶ谷さんは何かを感じ取った。そのため今まで考えていたことに迷いが生まれた。以前は自分で出した答えが全ての結果自殺をしようとした。

 でも今はそれが違うかもしれないと思い始めている。

 市ヶ谷さんの中に『生きる理由』がなければ本来迷うことも心が動かされることなどないはずなんです。だから今の迷い始めている状態が本当の市ヶ谷さんに繋がる機会であって、見なければいけない部分をしっかり見えるように私と生野さんがそばにいるんです」

 「それはたまたまではないのですか?
私たちは今日初めて会って話をしたのですよ?」

 「たまたまかもしれません。でも偶然でもないかもしれません。私は生野さんとさっき話していて、今はまだ自分でも戸惑っているので詳しいことは話せませんが、私に起きたこと、私と生野さんが会って話すこと、市ヶ谷さんと三人で話すことは偶然とは思えないのです。だっていつも賑やかな中庭が今日だけ私たちだけなんてありえないんです。雨の日や天候が悪い日ならわかりますが、今の天気はポカポカしていて暖かいんですよ。これが偶然だなんて信じられません」

 自分でも支離滅裂で説得力がないのはわかっていたが、非現実的なことを恥ずかしげもなく言い切ってしまった。

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