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【映画分析&感想】オッペンハイマー

約1年ほど前に公開された映画(2023年7月21日)です。今頃ちゃんと観ました。

道徳心と義務の葛藤、そして彼の信念についての映画です。

伏線だらけ、仕掛けだらけでした。前半の原爆開発と後半の原爆投下後が因果関係になっています。前半の伏線回収が後半でされたり、複数個所で引用される事柄の背景事情が映画の主題と完璧に一致しているなど、細部まで練られており、作品として美しいです。加えて原爆が絡む重いテーマを扱っているので(しかも3時間)、消化にとても時間がかかる映画でした。

まず、原爆がオッペンハイマーというテーマから切り離せない以上、原爆投下のシーンや、それに歓喜するアメリカ市民や政府を見ることになります。また、原爆の投下が「オッペンハイマーの人生を語る映画の一部」としてしか扱われていない点もあり、その点の配慮は欠けていた、と感じます。その点はかなり不快でした。

とはいえ、題名にもある通り、これはオッペンハイマーの映画なので、その批判は置いておきます。

以下は僕が面白いと思った点です。

0,The Waste Land(荒地)
映画の序盤で、オッペンハイマーが、T.S. EliotのThe Waste Landという本を読んでいるシーンがあります。(僕は読んだことないので、wikiの情報に依拠しています。)
The Waste Landはliving death(死の状態を生きる?)ことを意味しており、これがまさに原爆を開発してしまった、オッペンハイマーの人生を示唆しています。(開発後は彼の絶望と後悔≒死が描かれる)

また、この本が「さらにセックスの荒廃と、その創造性とを描き、死と荒廃の支配と希望を描きつつ、いずれとも結論は示されない。」(日本語版wikiより引用)という点に関しても、①映画内で妻と子供を持ちながら他の女性とセックスをするシーンがあり②その女性と結びつけられた荒地で原爆が創造され③死と荒廃の支配=原爆による戦争の終結を意味していそう。

そもそもwastelandという語自体(荒地)が原爆投下後の世界を表すと共に、原爆実験が行われたLos Almosもまさに荒地だった。

1,道徳心と義務の葛藤
映画内で、二度 "now I become death, the destroyer of worlds"という言葉が使われます。一度目はセックスの最中にサンスクリット語の原文を翻訳した際に、二度目は原爆の作成に成功した際に。
この言葉はBhagavad Gita(ヒンドゥー教の聖典の一部)という作品に出てきます。この作品の舞台は戦場で、テーマは「倫理と道徳上の苦悩」です。作品内では、「戦場における戦士としての義務(殺生)vs 倫理、道徳」が描かれるようです。

上記のフレーズは、それだけをとっても原爆開発者として、オッペンハイマーの言葉としてピッタリですが、①オッペンハイマーは軍の施設で研究をしていたこと②原爆は戦争目的であったこと③オッペンハイマーは利用に反対していたこと④彼の軍人としての義務と科学者としての倫理の葛藤など、作品の背景まで含めてオッペンハイマーの置かれた状況と一致していました。

2,オッペンハイマーの信念
同様に二度使われた言葉として "you can't lift the stone without being ready for the snake that's revealed" があります。
映画の後半で、オッペンハイマーは軍部から尋問を受け、辱めを受けます。オッペンハイマーはこれに対して反撃せずひたすら、苦しみを受け入れ続けるのですが、周囲からは、「なぜ負け戦をするのか(なぜやりかえさないのか)」「彼ほどの天才がなぜこの未来を見通すことができなかったのか」などと言われますが、オッペンハイマーは、僕には僕の理由がある。と言って、彼の信念を貫きます。
これはオッペンハイマーが、原爆を作成すること(lift the stone)で起こり得る未来(snake)に対する準備ができていたこと、を示しており、彼の一貫した信念、全てを見通した上での原爆開発であったことを示しています。
≒(プロメテウス(先見の明を持つ者)と映画の最初で例えられる)

3,その他
他にも
オッペンハイマーがリンゴに毒を盛るけど後日、焦ってそのりんごを回収しに行くシーンは、
りんごの実の花言葉「誘惑と後悔」≒原爆を作るという科学者としての誘惑?とそれに対する後悔、を抱えるオッペンハイマー

映画の最初、プロメテウスに例えられたオッペンハイマーだけど、これもプロメテウス(先見の明を持つ者)とオッペンハイマーが一致。
文脈としても、「ゼウスの忠告を無視してプロメテウスは火を人類に与え、その火を使って人類が争いを始める」≒「原爆を作成し、その原爆が理由となって米ソの冷戦が始まる」

アインシュタインが石を池に投げ込むシーンとオッペンハイマーがグラスを壁に投げ込むシーンが対比(両者共に原爆の作成に貢献している)→映画の最後にオッペンハイマーとアインシュタインが会話します。

Oppenheimer: "Albert? When I came to you with those calculations, we thought we might start a chain reaction that would destroy the entire world...

Einstein: I remember it well. What of it?

Oppenheimer: I believe we did.

end.

作中で引用される事柄全てがこの映画の主題に繋がっていて、鳥肌でした。
他にも細かい演出で面白い点はいくつもあります。
是非!


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