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急報 ルネサスがまたもリストラ

 新年早々、ルネサスエレクトロニクスの下記のリストラニュースが日本経済新聞電子版で飛び込んで来ました。

下記は上記記事の抜粋です。
 ルネサスエレクトロニクスが全従業員の数%にあたる最大数百人規模の人員削減を国内外で実施することを記載しています。社員には2024年末までに実施方針が伝えられたとのことで、春に実施されるべき定期昇給も見送るとされています。目的は、半導体需要の低迷に対し、人件費を抑えて不況に備えることであるとしています。具体的には、国内外約2万1000人の社員のうち5%未満にあたる人員を削減すると従業員に伝えたそうです。同時に、25年早期に量産開始予定だったパワー半導体の新工場である甲府工場(山梨県甲斐市)の稼働も見合わせたそうです。

 上のルネサスエレクトロニクス2024年3Qの業績に関する分析報告でも述べたように、工場稼働率が50%程度に低迷している現状、固定費に手をつける状況であることが理解できます。現在、この様な工場の低稼働でも継続して黒字を確保出来ているにも関わらず、人員削減に手を付けなければならないのか? 各所から疑問の声が上がっている様です。これに対する私の理解は、以下です。同社は、これまで多くの会社を買収し、それにより業績の拡大を図ってきていますが、例えば、昨年2024年に実施した豪社Altium Limitedの買収では、約8,900億円を要したとされています。自社の資金だけでこれだけの額を用意することは出来ないでしょうから、当然、借入で賄っていることでしょう。この様な状況で、国内工場稼働率低下による業績悪化に対して、何かの手を打たなければ、出資元の理解が得られないことから、経営陣の確固たる姿勢のアピールのために、格好を付けるために実施しているものであると考えます。

皆様もご存じかと思いますが、ルネサスエレクトロニクスは、2010年の発足以降、リストラ横行の会社運営を行って来ています。この会社は、日立と三菱電機の半導体部門が統合されていた会社であるルネサステクノロジーと、NECエレクトロニクスが、2010年に統合され発足した会社であります。発足当時は、45,000人を超える社員を抱える会社ではありましたが、両社の事業領域が多くの部分で被っていたことに合わせて、不幸にも2011年3月11日の東日本大震災により、旧ルネサステクノロジーの茨城の主力工場が被災したことから、その復旧費用の影響もあり、会社運営として非常に苦しい状況に陥りましたことから、3度の大きなリストラ施策を実施して、下図にある如く、同社人員の半減以下である2万人の社員までシュリンクして来ました。その歴史は、以下の通りです。

社員数推移

 まず、第一弾として、震災後の落ち込む売り上げ対策として、固定費を大幅に低減するため、大規模な早期退職制度が2012年9月に実施されました。ここでは、会社にとって余剰となっている人員に加え、ルネサスエレクトロニクスの将来に期待の持てない優秀な人材も応募に至り、当初の募集人員である約2千人を大幅に上回る7,511人が応募しました。

 最初のリストラで一息付けたものと思われていましたが、その業績は復活せず、トヨタや日産等の国内自動車メーカーに一手に車載半導体を供給していたルネサスエレクトロニクスの存続を国が望んでいたことから、INCJ(株式会社産業革新機構)の傘下に2013年9月に入ることとなり、このINCJが同社の株式の69.15%を保有することとなり、実質、自主的運営が不可能となりました。INCJのご指導の下、業績の再建策が検討され、6インチ以下の工場の統廃合に加え、更なる固定費の削減策として、2014年10月に国内子会社を含む35歳以上の従業員1万4000人以上を対象とした早期退職優遇制度が実施されました。募集人員は1,800人程度に対して、実際の応募人数は1,725名で、退職日は2015年1月31日に退職していきました。

 これら2回のリストラで1万人程度の人員が削減され固定費は削減されたはずでしたが、売り上げは、下図の2018年から2020年まで徐々に低下する傾向が収まらず、2019年には、この国内市場の縮小に対応するため、3回目のリストラとしてグループ従業員の5%にあたる1000人近くを削減する早期退職を募りました。対象は国内が中心で、間接部門や技術部門などの35歳以上が対象となり、それまで3回のリストラを実行してきた古参の幹部社員を含め、屋台骨の中堅社員を中心に会社を去ることになりました。

 これらのリストラにより、固定費が削減され体制が整ったと見た、元々INCJから派遣されていた柴田CEOの率いる新体制は、すでにINCJの傘下から抜けだしており、反転攻勢に打って出ました。正し、自社内には業績を大きく伸ばすための有効な技術、製品や策が無いことから、2020年に約4億5,000万ドルを投資して、アナログデバイスの特異なIntegrated Device Technology (IDT)を買収しました。買収施策はこれに留まらず、2021年には低電力のミックスドシグナル、Wi-FiおよびBluetooth等のコネクティビティ技術に強みを持つ英国Dialog社を約6200億円で買収しました。また、2022年には、約8,879億円が投じられアメリカの電子回路設計ツール企業であるアルティウムを買収しました。これらの買収施策により功を奏してか、下図の様に、2021年から急激に売り上げが拡大し、翌年の2022年には、それまでの2倍の売上額1兆4千億円、また、この売り上げ増に伴い利益も8,500億円までに向上させることが出来ています。しかしながら、一転、2023年には頭打ちで、低下傾向に入っているようにも思われます。この様な状況は、NVIDIAを中心としたAIデーターセンター対応の半導体デバイスの好調に乗り遅れているルネサスエレクトロニクスの業績に影を落としている結果であり、4半期毎の業績を示した下の図からも2024年の業績は引き続き悪化傾向であることが分かります。10月の第3四半期の業績発表では、第4四半期の売り上げはさらに20%程度低下することも報告されており、低迷傾向は加速しています。

業績推移(4Q24のデータは同社発表見込み値)

 加えて、同時に発表された工場の稼働率状況の下のグラフからも、国内工場の稼働率は継続的に低下して、24年3Qでは50%以下に落ち込む状況に陥っています。

工場稼働率推移(ルネサス発表資料より)

 この様な業績悪化傾向の中で経営層が打ち出した策が、人員削減による固定費削減策ということになります。即ち、ルネサスは2023年11月から24年にかけて、全従業員の5%に相当する人員の削減を実施し、24年4月に予定していた定昇も半年延期するという施策です。

 ルネサスエレクトロニクスの経営層は、巨額の買収による見かけ上の売り上げ拡大と、人員削減による固定費削減しか策が無いのでしょうか? もっと工夫して貰いたいものです。経営層は、過去の巨大なリストラ実施により慣れてしまい、麻薬中毒者の様に乱発しているように思われます。現在、社員数が2万1千人程度ですから、5%の人員削減が行われたと仮定すると、1,500人の人員削減になりますから、1年間の一人当たりの固定費を1,000万円としても、年間の固定費削減額は年150億円程度ですから、これに注力するよりも、ヒット製品を一製品創出する方が余程効果的ではあると思われます。

まとめ
 ルネサスエレクトロニクスの経営陣は、市場の声を聴くことが出来ず、EV化を期待して、隠し持っていた旧日立の旗艦半導体工場であった甲府工場を12インチのパワーデバイス工場として数百億円を降下して2025年の本格稼働を目指しましたが、EV市場の伸び悩みでこれをあと倒しすることを決定し、固定費悪化の状態を作り出しました。また、現在の半導体市場では、NVIDIAの好調さから分かるようにAIデーターセンター向けが活況であるのですが、これに対応した製品群を持っていないことから、完全に流れに置かれてしまっています。これらの失策をリストやという形で凌ごうというようにしか見えません。もっと画期的な施策を提示していただくことを願っています。

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