「これから伸びる日本企業」を読んで
黒島光昭著「これから伸びる日本企業」(発行所:㈱幻冬舎)を読んだ。
本書は、投資信託会社の投資部門責任者の自伝的持論のようなもので、一般のビジネス書とはちょっと毛色が違う。けど、あれこれ考えさせられ、面白かった。
やり直せる社会って、イイな
著者の略歴を見て、「えっ!」と興味が湧いた。
著者は、本書の舞台となる投資信託会社の社長を何年か担い、そして、退任してる。 その後は、全く別の仕事に就いていたのに、出戻って、後任社長の元で働いてる。 「取締役最高投資責任者兼運用調査部長」がどれだけのものかわからないけど、結構、偉そうな役職に返り咲いている。そんな事って、あるんだなぁ。
私が創った会社では、何人か出戻りがいた。多くは出産・子育てのために退職した人たち。子育てが一段落する頃、電話が掛かってくる。「元気ですか。あのう・・・」って感じ。
もちろん、OKだ。それなりに頑張ってきた人たちは、数年、現場を離れたって、腕が錆びついているわけじゃない。むしろ、親となって、子育てを経験して、以前よりも逞しくなっている。 出戻った人の中には、家族の都合で、海外移住した人もいて、リモートワークしてる。便利な時代だ。
公務員が定年退職してから、元の役所で働く姿は、何度も見てきた。
当時でも60歳定年は、体力的にはまだまだ働き盛り。外に出て働く道もあるだろうけど、好きな仕事に就けるのが一番。
「出戻り」というより、「再雇用」か。
いずれにしろ、かつての部下や年下の上司の元で働くことになる。
働きたいという気持ちを実現できる職場があるのは幸せなことで、再雇用の人たちは、現役時代のキリっとした顔つきから、嬉々として柔和な顔立ちに変わっている。
日本は、超高齢社会で、労働力不足でもあるので、高齢者を上手に活用していくしかない。
けど、「文字を大きく」とか、「大きな声で話す」なんてことくらいで、どこを見ても、高齢者のモチベーション向上につながってない感じ。
逆に言えば、高齢者を意欲と経験を上手に使いこなす会社が、これから成長する会社群の一種かも知れない。
著者の会社が高齢者に寄り添う会社なのかどうか、知らないけれど、少なくとも、社長経験者が出戻り出来るのだから、居心地の良い会社なんだろう。 まぁ、私なら、顧問とか相談役のような、ちょっと本流から外れた処で、ひっそり生きていくけど、著者は保守本流に収まってる。きっと、働き易い職場なんだろうな。
夢を語れる、自由さが欲しい
それにしても、この頃、明るい未来を語る人が少なくなってきたような気がする。 ちょっと夢を語っただけでSNSで叩かれる時代だから、面倒になってしまったんだろうか。何とも残念だ。
戦後の「所得倍増」を訴えた池田勇人首相の時代は、倍増かどうかわからないけど、経済が順調に成長してゆき、有言実行のリーダーのように見えた(ホントのところは分からないけど・・・)
令和の「資産所得倍増元年」を訴えた岸田首相は志半ばで、その座を降りてしまった。残念だ。せめて、所得倍増の道を拓いてくれたらいいのに、後任の石破首相は「金融所得課税の見直し」を標榜してる。どうなるんだろうか。
本書では、著者が社長を引いた後に出会った有望ビジネスの萌芽となる技術開発や市場創出について語られている。ひょっとしたら、それらに投資するために投資信託会社に出戻ったんだろうか。わからない。
けれど、世の中が進化していく限り、たぶん日本に限らず世界中に、いろんなビジネスチャンスが転がっている。これらを上手に拾っていけるような語り部は、必要だ。
形のないものが、かたちあるものに繋がっていく
本書の第二章の冒頭に記されてた「形のない資産が、形ある未来を創り続ける」って言葉が気になった。
内閣府知的財産戦略推進事務局に設置された「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」で検討し、2023年3月にとりまとめた改定ガイドラインのキャッチコピーだそうだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdf
日本では、こんな取り組みもやってる。何だか、捨てたもんじゃないな。
だけど、検討会の中身を見たら、「企業による知財投資・活用を促していく」ための会で、そこで既往ガイドラインを改定したよう。実態は、ちょっと様子が違って、知財の有効活用と民間投資促進みたい。 1,400兆とも言われる個人預金を引っ張り出して、国づくりに活かそうってことか。
なぁんだ。やっぱり・・・ちょっと切ない。
狭い国土に多くの人が居る日本。食料やエネルギー資源に乏しい国は、頭の中で造り出したモノをサービスにして、世界中に広めていくしかない。
エンタメは韓国に一歩リードされてしまったが、アニメやゲームなどは、ジャパンがトップブランド。
この先、本格化するAIやドローン等々は、何処が制するのか。
あるいは、日本ではトンネルの崩壊や道路の陥没、水道管の破裂が増えている。おそらく、世界中で起こっているはずで、検査・検知技術とか修復技術、予防技術なんかも、重要度を増している。
高度経済成長の時代は、東京圏への一極集中という戦略で世界に冠たる国を築き上げた。今度は、「かたちのないものが、かたちある未来を創る」という、日本らしい、スーパーニッチな戦略で世界に打って出るような気がする。そう期待したい。
(敬称略)