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「サイバースペースの地政学」を読んで
小宮山功一郎・小泉悠著「サイバースペースの地政学」(発行所:㈱早川書房)を読んだ。
書店で見かけ、気になった。ちょっとページをめくって、なるほど。
そうだった、そうだよな。「WebもSNS」もネットワーク上だけど、実際は物理的などこかに設置されたコンピュータの中にある。
当たり前のことだけど、うっかり忘れていた。
世界とつながる唯一の道~海底ケーブル
日本は島国で、どこの国とも物理的に接してない。今も昔も変わらない、孤立無援の独立国家。
だから、諸外国とは、船か飛行機で往き来するしかない。
電話だって、SNSだって、海外の友達とは、海底ケーブルがなければ繋がらない。Web検索だって海外サイトとは、海底ケーブルで繋がっている。
スマホが無線で、今では、海に行こうが、山のてっぺんでも電話できる時代。 「無線全盛の時代」のよう。
でも、それは錯覚。
総務省の令和5年の「情報通信白書」によると、国際通信の約99%は海底ケーブルを使ってる。衛星通信はほんのわずか。
海底ケーブルに依存するのは、次のような理由らしい。
・ 無線よりも光ケーブルの方が、通信速度が速い
・ 海底ケーブルの方が衛星通信よりも、通信距離が短い
三菱総合研究所が2023年7月に公表した「海外とのデータ流通を支えるインフラ強化戦略」によると、日本の海底ケーブルは20本以上となっている。他の資料を見ても30本程度。
サイバー空間は時間と場所を超越する、なんて思いがちだけど、
日本は、僅か30本弱のケーブルで、世界とつながっている。
これらの海底ケーブルが、地震や海底火山爆発等々で全て切断されたら、日本は孤立無援になってしまう。
「情報通信白書」によると、東日本大震災の際、10か所の海底ケーブルが破損し、10か国以上につながる回線において障害が発生、完全復旧までには半年を要したらしい。 そんな脆弱性が、今もある。
もちろん、日本だけじゃない。
どこの国や地域であれ、海底ケーブルのお世話になって、世界とつながっている。Wikipediaによると、「2021年現在、世界には447本の海底ケーブルが張り巡らされている」そうだ。本書によると、総延長140万km(地球35周分)。 140万kmもあれば、劣化や地震が火山爆発等々で断線することがあるそうで、毎年100ヶ所は世界中のどこかの海で海底ケーブルの補修工事を行っているらしい。
国内だって、スマホが無線だからと言って、全てが無線なわけじゃない。基地局から先は光ファイバー線を使っている。現在、国内のおよそ9割が光ファイバー線になっているが、旧来通信線のところもあるみたいだ。
つまり、ゲームやSNS、WEb、電話は、そのほとんどが光ファイバー線のお世話になっている。
これが、日本のインターネットの正体。
・・・そうだったのか。って感じ。
データセンターは、そんなところ
私が現役時代にもデータセンターはあったけど、どちらかと言えば、データを貯める場所(保管管理場所)というイメージが強かった。たぶん、保険会社が保険証書を光ディスクで管理するというのが始まった頃で情報のアップデートが止まってたんだろう。
今は、コンピューターシステムやソフトウエアやアプリケーションの高度化により、データセンターとのアクセスは、日常だ。
データの安全性を考えれば、データセンターは人里離れた山奥の、地震や災害に強いところがいいはず。
でも、利便性を考えると、利用環境に近い方がいい。
本書によれば、株式取引用のシステムでは、1ナノ秒(10億分の1秒)単位での処理が求められるシステムもあるので、結果的に利用場所に近いところにデータセンターを置きたくなるようだ。
しかも、そのデータセンターは、特定地域に集中しているそうだ。
「なぜ、集中するのか?」とは思う。けど、①データ活用の効率性、②データの安全性の2点で、適地が選定されているようだ。
いずれは衛星通信か
平成元年の情報通信白書によると、千葉県千倉とアメリカ本土をつなぐ海底ケーブルは11,340km(ハワイ経由)。通信衛星の場合、静止衛星が主流だけど、36,000kmもある。ただし、静止衛星より地球に近い距離にある周回衛星なら7~800kmで効率的だが、まだまだ衛星の数が少ない。
どんどん衛星が打ち上げられ、無線通信速度が光通信を超え、そして、道路みたいに上手に衛星を監視・管理できるようになれば、海底ケーブルから衛星通信にシフトするのかも知れない。
そんな日が来るまで、海底ケーブルがインターネットの命脈。か。
デジタル時代って言っても、今は、結構アナログなんだ、と思い知った。
(敬称略)