「SHOE DOG」を読んで
何年か前に読んだ「SHOE DOG」(発行所:東洋経済新報社)。
著者は、あのナイキ創業者のフィル・ナイト。
終の棲家九州に越してきた時、会社を失くしし、たくさんの本を捨ててきた。本書を捨てる時、あっ、思ったけど・・・
だけど、どうしても忘れられず、また、買って読んだ。
何冊もの経営者本を読んできたが、そのどれとも違う。苦労話でも成功談でもない。等身大の起業の物語。そんな気がしてる。
「それが出来なければ、僕は破産ということ?」
本書、半ばに出てくるこんな言葉が心に沁みた。
私も社長時代、毎年、年越し出来るか、年度末を乗り切れるか・・・と資金繰りで苦労した。
仕事はいつだってたくさんあって、みんな元気で頑張ってた。
けど、「勘定あって、銭足らず」って事を身を持って感じてた。
特に、起業直後のどうなるかわからない会社に、実績もない若造に、お金を貸してくれる銀行はなかった。大変だった。辛かった。
業績好調で会社が大きくなると、いわゆる運転資金もたくさん必要になるので、私一人の連帯保証で、億単位のお金を借りなければならなかった。
順風満帆ということかも知れないけど、ひとり心が苦しかった。もちろん、誰にも言えなかった。
世界に冠たるナイキ創業者の著者も、そんな道を辿っていたんだ、と親近感が湧いた。 そして、何があっても、夢に向かって突っ走るしかない。そうだよなぁ。
本書は、ホントの起業を語っているおススメの本。
夢中になれる仕事を
靴にのめり込んで著者だって、プライベートもあるし、趣味に没頭したりリラックスする時もあったんだろう。だけど、いつも頭のどこかに仕事がチラついている日々だったのは間違いない。それでもいい。それがいい、と思ったから「靴にすべてを」ってサブタイトルを付けたんだろう。
本書序盤に出てくる、「馬鹿げたアイディアだと言いたい連中には言わせておけ・・・走り続けろ。立ち止まるな。・・・(中略)・・・“そこ”がどこにあるかも考えるな。」も、ぴったりフィット。
夢中になって走り続ける。それが起業。
紀元前に始まった古代オリンピックでも、「走ること」は、競技種目になっていたけど、本書では、「1965年当時、ランニングはスポーツですらなかった」と記されており、競技であって、一般化してなかったようだ。
ナイキの前身となるブルーリボンを創業した1962年、スニーカーはまだ一般的ではなく、アスリートだけが履く靴だった。にも関わらず、著者は「いつか皆が日常的にスニーカーを履くようになると信じていた」らしい。
こんな夢物語を固く信じて疑わない時が、たぶん、誰にでもある。
もちろん、真っ当なビジネスモデルがなけりゃ上手くいかないし、ビジネスセンスだって必要。
だけど、いつか何とかなるっていう楽観的というか「根拠のない確信」が意外と大事。 それは、たぶん、「夢中になってる」ってこと。
起業で成功するには
起業家には、次の二つのタイプがある。
● 事業に軸足を置く人
● 会社経営に軸足を置く人
どっちが良いとか悪いとかではない。
起業には、というか会社には、事業と経営の二つの側面があるということで、特別のことではない。
そして、起業して成功するには、事業も経営も、両方しっかりしてる必要がある。まぁ、これも当然のこと。
だけど、多くの起業家は、どちらかに軸足を置き、つまり、脆弱な部分を持っている。そういう自覚も必要ってことだ。
もちろん、一人で両方を持ってる人もいる。けど、それは稀。
だから、起業家には、自分にない部分を補ってくれるパートナーが大事。このパートナーを持てるかどうかが、成否を分かつ。
著者は、「靴にすべてを」っていうくらいだから、前者のタイプ。でも、読んでいけばわかるけど、仕事を任せる仲間もたくさんいる。だから、大成功したんだと思う。
(敬称略)