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「漂流する日本企業」を読んで

伊丹敬之著「漂流する日本企業」(発行所:東洋経済新報社)を読んだ。

 タイトルが小粋で、思わず手に取った。

 バブル崩壊後から「失われた10年」とか、失われた年月が重ねられ、もはや「漂流」。言い得て妙。 

 

ヒトが一番大事。だけど、株主だって、社会だって、みんな大切

 「バブル崩壊後、株主偏重経営になっており、積極的な投資(設備投資・海外展開投資・人材投資)が疎かになり、企業の活力が削がれ、負のスパイラルに陥っている。原点回帰して、勇猛果敢に投資して立て直すべし」。
 本書は、そんなトーンでまとめられている。

 確かに、ヒトを大事にしない会社に明日はないし、株主偏重はバランスを欠く。近江商人の「三方良し」じゃないけど、経営者には、従業員や株主、顧客、取引先等々、気配り、心配りが必要。何より公正でなければ。

 本書では、株主が随分嫌われている。
確かに、今、決算シーズンで、様子を見ていると、配当性向が100%超えている上場会社がいくつもある。つまり、今年の儲け(純利益)以上に、株主配当するってことで、やっぱりこれはオカシイ。著者のいうとおりだと思う。
 配当性向が高止まりしてるのは、ちょっと異常。だけど、バブル崩壊以前は、配当性向が低過ぎて株主軽視。極端に走り過ぎるのは日本的特徴か。

 ちょうど良い中庸ってものが欲しい。
と思ったら、意外にも、イイ線に向かい始めているようだ。

2001年度までは、配当金額に大きな増減はみられませんでした。配当金額は2002年度から大きく増加し、2006年度をピークに減少に転じましたが、2011年度以降は、再び増加傾向にあります。
また、2001年度までは当期純利益が増加しても配当金額は増加しない傾向にありました。2002年度以降には当期純利益の増減に伴い配当金額が増減する傾向がみられることから、両者の連動性が高まっていると言えます。

出典:財務省 財務総合政策研究所 法人統計調査


 積極的投資が難しい時代

 会社を存続させなきゃいけない。成長させなきゃいけない。
 でも、働き甲斐も必要で、儲けなけりゃいけない。
会社を経営する人達は、いつも、こんな事を考える。

 今年の儲けも必要だけど、先枯れが恐いから、将来の飯のタネも必要。

 何重苦っていうのか知らないけど、とんでもなくメンタル強めか、何も考えない自己中でなければ、会社なんて経営できない。 まぁ、自己中心の経営者なんて長続きしないけど。

 中国が台頭し、インドも人口世界一になって経済も大きくなっていくし、続く急成長する国々がたくさんある。
 一方、バブル崩壊後、長く低迷している日本。

 何処に投資すれば、自社に勝機をもたらすか。・・・悩む経営者たち
 でも、たったひとつ、確実性の高い急成長市場がある。
株式債券市場だ。 眠れる預金を呼び起こすために進められてる。

 本来業務でなくても、キャッシュリッチな会社なら、うま味を出せる。

 「辛く苦しい積極投資よりは、株式債券市場で儲けて利益を増やして株主還元してれば、自分の地位は安泰」なんて、悪魔のささやき
 呼び込まれてしまう経営者たちもいるかも。
 本書を読んでいると、そんな経営者ばかりに見えるけど、まぁ、そんなこともないでしょう。立派な経営者もたくさんいる。

 イギリスの経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、「アニマルスピリッツ」といったそうで、なるほど、そのとおり。
 ちなみに、2016年に経産省がアニマルスピリッツ指標の検討していたのでご紹介

https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/pdf/h2amini064j.pdf

                          出所:経産省HP

老いては子に従え

 バブル崩壊後の日本経済の低迷は30年にも及ぶ。

 それでも、日本が沈まないのは、先人たちの築き上げた資産があったればこそ。この積み重ねが無ければ、日本はどこかの属国となるか、無謀な戦争を仕掛け雲散霧消するか、ともかく悲惨な状態になっていたはず。そういう意味では、戦後復興の僥倖であり、先人たちへの感謝に尽きない。

 一方で、30年と言えば一世代。「親から子へ」の世代交代の時。

 過去を知らない子供たちが、積極投資を恐れることはない。
最新の技能と知識を使って、新しい道を切り拓いていく。 当然、親世代の経験なんて気にしない。それでいい。

 積極投資が難しいと思う経営者たちは、アニマルスピリッツに溢れた次世代に未来を託そう。
 思い出と誇りを持って自主的に退場し、次世代にバトンタッチ。
 それがいいんじゃないか。なんてことを考えてみた。

                              (敬称略)

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