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「危機迫る日本の防衛産業」を読んで

 桜林美佐著「危機迫る日本の防衛産業」(発行所:潮書房光人新社)を読んでみた。著者は、防衛問題専門とするTVディレクター出身のジャーナリスト。初めて読んだ。
 そもそも国防に関する本はマトモに読んだ事がない。何かの書類の中で、国の「安全保障」とか「サイバーセキュリティ」等々についての解説なんかを読んだ程度。国の防衛は、靄のかかった遠い世界。そんなことじゃ、いけないんだろうが。
 日本を守ることではあるけど、「防衛問題」になるとTVやWEb上では批判的な意見が多い気がする。まぁ、分からないでもないけど。批判も含めて、国を守ることは真剣に議論した方がいいんだろう。
 本書は、防衛に関する国内「産業」、会社の話。ちょっと気になった。
 読んでみて、なるほど、そうだったのか。ということばかり。
 たまには、こういう本も、読んだ方がいいな。

防衛に関する「産業」って・・・知らなかった

 国防に関わる会社と言って思い起こすのは、三菱重工や東芝ぐらい。
 Web検索すると、「防衛産業業界」「軍事・防衛関連」なんてカテゴリーで、株式公開企業がいくつも出てくる。「産業」と呼べるほどの多くの会社が、日本の防衛に関わっていることに驚いた。
 本書では、防衛省の入札についても記されている。私も現役時代は、国や自治体の入札で苦労したので、「入札制度のひずみ」は知っているつもり。本書では、株式公開企業でも、防衛産業から撤退する企業があることが明かされている。えっ!ウクライナでも、武器弾薬が足りずに困っていたじゃないか。今時、撤退して、日本の防衛って、大丈夫なのか。
 日経新聞によると、「防衛分野の事業から撤退した企業は直近20年で100社超に上る」らしい。まぁ、民間企業にとって、国の入札制度は厄介だ。大した事業規模にならない割に、利益率は低いし、何より手間がかかるので、後ろ向きになるのだろう。わからないでもない。

2兆円に満たない小さな「産業」

 平成30年の情報通信白書によると、2016年の市場規模全体は、1,000兆円弱。そのうち、NTT等を含む情報通信産業は94兆円、トヨタ等の自動車産業は56兆円。
 ちなみに、日本最大規模のトヨタの売上高は1社で37兆円。
 日本を守る産業の、何とまぁ、小さいこと。寂しいほど。
 「日本の自衛隊員の力量は高い水準にある」なんて話を耳にする。防衛省の要員育成の賜物なんだろう。けど、どんなに優秀な人員がいても、武器弾薬等の兵站力がなければ、国防もままならない。その点では、日本の防衛産業は重要だ。

「国を守る」のは、難しい

 「国防」について、あまり考えて来なかった。誰かと一緒にいても、「国防」を話題にしたことはないし、「国防」を熱く語る人に出会ったこともない。たぶん、そんな風潮が日本全体にあるんじゃないだろうか。
 某氏は、「アメリカが日本のために核兵器を使って守ってくれるなんて幻想」と言ってた。ホントかな。ウソであって欲しい、と思ってしまう。
 私の子供は私が守る。そういう思いはある。命を削ってでも守る決意はある。他国との紛争になっても、家族は守りたい。
 でも、どうやって、守ったらいいんだろう。わからない。
 国が、守ってくれるのだろうか。
 たぶん、そうなんだろう。大丈夫?なはず。
 そんな期待に、縋っている自分がいる。
 大きな矛盾を抱えながら、還暦まで生きてきた。

 2022年度時点で自衛官は25万人弱。日本の人口のおよそ0.2%。つまり、1人で500人の国民を守る計算。
 アメリカは、およそ0.4%強の軍人がいる。日本はイギリスやドイツ並みに自衛官がいるので、極端に少ない訳ではないようだけど・・・。
 自衛官を増員しようにも、なり手がいない。
 ここ何年も、定員の5%割れが続いている。
 そもそも予算に余裕がないので、急な増員も難しいのかも知れない。
 そうなると、国防設備機械等々に頼るしかないけど、日本の防衛産業は脆弱だ。

防衛予算の増額っていうけど・・・

 本書を読んで驚いたことのひとつは、防衛関係費の44%が人件・食糧費で、35%が歳出化経費。歳出化経費は、いわばローンの支払いのようなもの。今でも役所は単年度会計だから、艦船や航空機等々を購入すると、「歳出化経費」として何年も繰り延べ払いしていく。ややっこしい。
 ともかく、防衛予算の8割近くが、ほぼ固定的に毎年支出されている。
 戦闘機(F-35)は1機146億円。イージス艦の建造費は4,000億円弱。新規の戦闘機や艦船購入、あるいはその時に発生した大規模災害対応費用やテロ対策費用等々は、残りの2割(4,000億円程度)の中で賄うってこと。流石に大変そうだな、と思った。
 ニュースなどでは、日本の防衛予算は世界でも十指に入るという。名のある組織が推計しているらしいけど、ホントだろうか。だって、隣国も大国も、詳細な軍事費用を公表するはずもないし、そう簡単にわかるような予算制度でもないだろう。


 日本を守るには、自衛官だけでなく、国も地方自治体も国民も、そして、防衛産業も、いろんな形で連携しながら、取り組んでいくことになる。重たい歴史もあるし、日本固有の文化もある。大変な労力、時間、お金が掛かる。
 ウクライナ・ロシア戦争だけでなく、中東でも新たな火種が本格化し、世界が混とんとし始めている。
 やはり、ある程度は、自力で日本を守る力は必要で、その下支えになるのが防衛産業。健全であって欲しい。

                              (敬称略)

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