【読書】スティーブン・キング〜闇のシャイニング、わるい夢たちのバザールI マイル81
昨年から読んでいた2冊の短編、中編をようやく読み終えたので読後感想を書きます。2つ合わせてなので。珍しく長めですがお付き合いください。
闇のシャイニング - SHINING IN THE DARK: Celebrating 20 Years of Lilia's Library
本書はキング氏の大ファンで自らWebサイトを20年間運営してきた編者 ハンス=オーケ・リリヤさんが自ら執筆・掲載交渉を実際に行って作り上げたホラー短編集ということで全部がキングの作品ではありませんが、同じようなテイストを味わえると思い、とても楽しく(?)読む事ができました(読ませていただいた、〜させていただいたという表現が嫌なので、主体的に書いています)。
後書きにも各作品について解説がありますが、私なりの感想もぜひ描いてみたいく、少しだけですが描いてみました。
1. 青いコンプレッサー - The Blue Air Compressor : A Tallish of Horror /Stephen King
まずは何はともあれ「キング」幻の未刊行作品からです。少し変わった作風で作者が中に出てきたりします。まるでデッドプールの映画のように中から語りかけてきます。キングらしいお下品な表現が続きますがこれも「味」ですね。
この作品で触れられていますがキングはエドガー・アラン・ポーの「告げ口心臓」がすごく好きな様ですね。ちゃんと本短編集に収録されていますのでぜひじっくり味わってください。
ストーリーというよりは作品の書き方や回顧録の様な感じですが、こうした自分の作家としての思いも作品として出すところがキングらしいと思います。
本当は隙間を埋めた一つの作品として読んで見たいですね(^^)
2. ネット - The Net /Jack Ketchum & P.D. Cacek
チャットのやりとり、日記、取り調べと過去の状況、シチュエーションを表現を変えながらラストに向かっていく。キャシーとスカイに何があったのか。
スカイが狂っていたのか、キャシーが狂っていたのか、僕にはわからない。どっちにも取れるモヤモヤした終わり方だけど他の皆さんはどう受け取ったでしょうね。
3. ホロコースト物語 - The Novel Of the Holocaust / Stewart O'Nan
難解でした。<ホロコースト物語>というのが主人公で、作家で、オプラ・ウィンフリーの番組に出るまで、なのですが、最後の一言をどう受け取って良いのか、わからなかったです。
4. アエリアーナ - Aeolian / Beverlys Vincent
すごく想像力をかき立てられるダークファンタジーな一作。好きなキャラクター、イメージに置き換えて読むと面白そうです。
5. ピジンとテリーザ - Pidgin and Theresa / Clive Barker
ヘルレイザーの監督としても有名なクライブ・バーカー氏による作品です。4フィート11インチの陸亀テリーザ、オウムのピジンがひと夜の奇跡に、人間の姿で繰り広げる会話を楽しみましょう。摩訶不思議な世界です。
6. 世界の終わり - An End to All Things / Brian Keene
家族を亡くし、生きる希望を亡くした男が、世界の終わりを待っている...
7. 墓場のダンス - Cemetery Dance / Richard Chizmar
ものすごく短い作品です。妻を亡くした男が妻の墓の前で自殺を遂げることで永遠に一緒にいられる様になることを実現する。その最後の時に主人公エリオットが持っていた手紙が冬の風に舞う時、落ち葉と雪が一緒にダンスを舞う。ただそれだけだが、余韻を残す作品。
8. 炎に溺れて - Drawn to the Flame / Kevin Quigley
これはもう「IT」の世界。少し長めで読み応えのある作品です。カーニバルで誘われた入った幽霊屋敷での恐怖の一夜とリベンジ劇。IT+スタンドバイミーの味わい。
9. 道連れ - The Companion / Ramsey Campbell
8に続いてこれも遊園地ネタ。ふと入った遊園地に隣接する古い施設の幽霊列車は...
10. 告げ口心臓 - The Tell-Tale Heart / Edgar Allan Poe
初めて読んだポーの作品です。これをキングがポーの最上の作品と呼んでいます。短い文章の中に、リズムがあり、落ちがあり、狂気がある。
11. 愛する母さん - A Mother's Love / Brian James Freeman
愛する母を介護施設に入れるために、満員の介護施設で働く息子が考えたことは...2時間サスペンスでよくありそうな簡単な話ですが、私はこの終わりに疑問を持ちました。果たして母親はまだ生きているのか、と。
12.キーパー・コンパニオン - The Keeper's Companion / JohnAjvide Lindqvist
本短編集では8と1、2を争う傑作と思います。都合の良い時だけ、じぶんの勝てる試合だけ付き合うとロクなことはありませんね。ネタバレするともったいないので詳しくはかきません。ぜひこれは読んでほしいです。
わるい夢たちのバザールI マイル81
続けてキングの中編集です。各作品の前にどうやって各作品のインスピレーションを得たか、キング自身の言葉で語られていて非常に面白いです。彼がどこでどうやってヒントを得て、どういう作品を生み出しているのか。多作なキングの頭の中は本当に面白く、摩訶不思議です。
全体を通してオチが分かるものもあればちょっと分かりにくいものもありましたがキングらしい作品がありましたのでぜひキングファンにもそうでない人にも読んでもらいたい作品です。
1. マイル81
クリスティーンとアンダー・ザ・ドームの不思議な感じがする作品です。無慈悲な怪物と元気な(無垢な)子供による解放、対決。本書のタイトルとなったさくひんでもあり、オープニングを飾るにふさわしいキングらしい快作です。
2. プレミアム・ハーモニー
長年連れ添い、すっかりボディーラインが変わってしまった奥さん、それでも好きな奥さんが買い物の途中で急死してしまう。また愛犬もそのどさくさで車に乗せたままで死なせてしまうが、二人(一人と一匹)は一緒にいることができて幸せだったのかも。まさにプレミアム・ハーモニー。
3. バットマンとロビン、激論を交わす
タイトル作品が本の表紙に描かれているが、中身は年老いてボケた父親と介護をする息子の物語。昨今日本でも煽り運転などが問題となっていますが、アメリカでも同じ、乱暴な運転や、喧嘩をふっかけてくる輩がいる。この2つが組み合わさってできた物語。読後スッキリしたのは私だけでしょうか。
4. 砂丘
これは面白かったですねぇ。主人公が持っている秘密。だんだんそれが明らかになってきて、読者は主人公が死期を悟ったのか、とおそらくは考えるのでしょう。キング作品はそんな終わり方はしませんよね。
5. 悪ガキ
どうしようもなく純粋な「悪」を子供の姿で描き出しています。死神と言うのでもなく、それを悪ガキと表現するあたりがまた絶妙。風態や彼のつく悪態も最高です。テレビでは放送できない表現山盛りで、キングらしさ炸裂しています。
6. 死
絞首刑になる男とその男の無実を最後まで信じた保安官のお話。こんなオチ、ある?
7. 骨の教会
散文的な詩と言う珍しい作品です。唯一、だと思うのですが、正直、味わえなかった...どう読み取っていいのか分からないんです。これを理解するのには英米文学的なバックグラウンドがもしかしたら必要なのかな?
8. モラリティー
具体的にどれくらいわるいことをしてくれと頼まれたのかなかなかはっきりしなかったのですが、大したことはないけどそれで心にできた「バレるかもしれない」「隠し事をしている」「わるいことをした」と言う思いがもたらす二人の気持ちのズレが悲しかった...
9. アフターライフ
人生やり直しを何度やっても同じことを繰り返している、と言われてもまたやり直しをすると思います。私も。天国、地獄、煉獄のどこに行くか分からないけど、やり直せるならまた一からするな、きっと。辛いこと、怖いこと、嫌なこといっぱいあるだろうけど、楽しいこともいっぱいあったから。
10. UR
最後を締め括るのにふさわしい快作ですね。私もこれを読んでピンクのKindleが欲しくなりました。塔の調和を乱してはいけないけど。
ところでギリアドのローランド、ケンタッキーのウェズリーの様に、どこそこの誰それ、と言う風に私も呼ばれたい。
さて、これでようやく夏の雷鳴 わるい夢達のバザールⅡを読み始められそうです。まだ眠れる美女達とアウトサイダーも待っています。しばらくキングの世界にどっぷりハマる幸せな時間を過ごせそうです。