地域市場で顧客価値を生み出す方法
2回にわたり地域ブランディングについて語ってきました。今回では、具体的な体験デザインをどう進めるかについて、書いてみたいと思います。一旦、今回の記事で地域ブランディングの概要は完結したいと思います。これまでの記事「地域におけるブランドマネジメントとは?」と「地域での協業を推進するブランディング」にご興味がある方は、ぜひお読みいただければ嬉しいです。
地域市場で顧客価値を生み出す方法
地域におけるブランドマネジメントのおさらい
地域においては「地域の資産・協業・市場」の3つの領域のブランディングをつなぐブランドマネジメントを行っていきます。今回は、体験ブランディングにて地域の市場における「顧客価値の創出」について説明します。
AKINDでは、創業からさまざまな地域に根付いたブランドマネジメントをサポートしてきました。一番初めの成功例は、神戸市の都市ブランディングとして食文化をテーマとしたブランド戦略「食都神戸 Gastropolis Kobe」の旗艦プロジェクトとして誕生したEAT LOCAL KOBEです。行政との取り組みから、地域のプレイヤーとの協業を通じて、若手農家や食への意識の高い事業者とコミュニティを形成し、ファーマーズマーケットの実証実験を繰り返しながら、今では毎週土曜日開催される神戸の新しい風景として定着したプロジェクトです。その他にも、オープン時は年間150万人の来場者を記録した次世代型道の駅「FARM CIRCUS」や小学校の廃校をコミュニティ型の複合施設としてリニューアルした「NATURE STUDIO」など。地域の資産を活かしながら、地元のプレイヤーが中心となって、新しい価値を形にしていく。そのような取り組みをサポートしてきました。
風景と文化と日常をつくるブランディング
これまでの地域におけるブランドマネジメントを行なってきた中で、大切にしてきたことがあります。それは、地元の市場で経済が回るようにすること。一般的な地域ブランディングでは、話題の商品やキャラクターを打ち出し、東京を中心に全国的に流行らせるというアプローチが成功事例として挙げられています。そのようなプロモーション的またはマーケティング的な手法は私は得意ではないということ、そして個人的な思想に合致しないということから、自分なりに地域に愛されるブランドづくりを心掛けてきました。個人的には、長期的には地域に根付いた資産をベースに、地域に愛されるブランドを育てることで、国内外にも評価される唯一無二のブランドが生まれるはずだと信じています。先述のEAT LOCAL KOBEでは、神戸市外へのプロモーションをテーマにしていた農水産課のプロジェクトを、足元にある150万人と地元市場をターゲットに切り替え、地産地消のライフスタイル化をテーマに設計しました。
AKINDでは、「風景をつくる(Landscape)」「文化をつくる(Culture)」「日常をつくる(LIfestyle)」という3つの要素のサイクルを意識したブランドマネジメントを行なっています。この考え方は「ペース・レイヤリング」というモデル(記事「地域におけるブランドマネジメントとは?」参照)にも繋がっています。
ファーマーズマーケットでの取り組み
AKINDが地域ブランディングを始める際、必ずその地域に根付いた普遍的な資産の紐解きから始めます。普遍的な資産というのは、その地域の地形・気候からなる風景(Landscape)を形成しているものとなります。ペース・レイヤリングのモデルに沿うと最下層にある変化が遅い要素と言えます。これらは不動な資産と捉え、風土などの地域資産の上に、地域独自の文化や産業などが歴史を経て形成されてきているはずですので、しっかりと地域ブランドの基礎を把握することから始めます。EAT LOCAL KOBEでは、都市の割に農地が近く、漁場も豊かで、都心には高感度な飲食店が多くあるため、地域の食材をベースとした神戸の食文化をテーマに取り組むことにしました
次にプロジェクトのテーマを掲げて活動する地域プレイヤーを中心に、その地域が大切にする価値観や地域らしさとは何か、どのようなまちづくりを目指しているのかという世界観について対話を重ねながら、プロジェクトの目的や成果を定めていきます。予算や人材が限られている地域プロジェクトにおいて、このプロセスはとても重要で、プロジェクトの中で何を優先し、何はしないのかを決めていくことで、プロジェクトの推進が加速します。また、地域プロジェクトでは、さまざまなステークホルダーが関わっていく必要があるため、これらのプロセスを通じて、協業文化の醸成も行なっていきます。EAT LOCAL KOBEでは、ファーマーズマーケットを開催する際、生産者自身が出店し、来場者と直接コミュニケーションが取れることを優先するため、彼らの負担にならないように朝からランチタイムまでに開催時間を制限するなどのルールを設けました。
そして、地域に根づく資産を紐解き、地域プロジェクトに関わる価値観をすり合わせながら、地域の暮らしを豊かにするテーマを定めていきます。EAT LOCAL KOBEでは、当時のトレンドであった地産地消やFarm to Tableをテーマに定めました。ただし、表層的な流行りに終始することなく、そのトレンドが生まれた文化的な背景をスローフードや米国の西海岸の歴史などを紐解き、神戸における地産地消の課題を明確にしながら、その解決策の一つとしてファーマーズマーケットの立ち上げを行いました。
神戸市内の公園でファーマーズマーケットを行うため、行政とも調整を行い、出店する生産者が軽トラックのまま農作物を販売できるようにオリジナルの什器を開発し、継続的に開催できるようにどのようなオペレーションが最適かを検証していきました。さまざまな試行錯誤を行いながら、やがて、生産者のコミュニティを中心に、EAT LOCAL KOBEのコンセプトに共感した来場者のコミュニティが育ち、土曜日の朝にファーマーズマーケットに野菜や果物を買いに行く、ブランチを食べに出かけるという暮らしが定着化し、ファーマーズマーケットが神戸市内の各地で開催され、神戸の風景の一つとなっていきました。この風景が、神戸ならではの地産地消という文化が根付き、当初のコンセプトであった「地産地消のライフスタイル化」が実現しています。
おわりに
今後は、EAT LOCAL KOBEだけでなく、さまざまなプロジェクトを通じた解説も行なっていきたいと思います。また、地域ブランディングでの失敗した体験も踏まえながら、私が思考しているプロジェクトデザインの考えも書いていければと思っています。