電気自動車・EVと暮らしてみよう ② 〜電気代はガソリン代の半分!?〜 【MAZDA MX-30 EV】
古賀章成です。自動車開発テストドライバーという仕事をしています。以前に公開した以前のEVに関する記事では、
「近い将来、自動車はそのほとんどが電気自動車・EVになるらしいけれど、既存のクルマといろいろ違う部分があるから、そこについてはよく知る必要がありますね。」という話をしました。給油ではなく、充電という作業に代わるにあたり、必要なものや場合によっては家や駐車場に工事が必要になってくるという話です。
今回その疑問の行き着く先へ一足飛びに、ぶっちゃけ電気代ってどうなるの!?ガソリン代より高いの?安いの??っていう素朴な疑問に、ぼくなりの調査の結果をお話ししたいと思います。まずは結論から言うと、
走行距離の距離あたりで比較して、EVの電気代は、ガソリン車のガソリン代の、おおよそ”半分”です。
ここから先は、もう少し具体的に話します、
自宅への充電設備の導入してみて、
自宅の電気契約の見直ししてみて、
自宅充電で運用したときの費用についての検証をしました。
EVを導入するとなったらこの順に知る必要があるとは思うのですが、そうはいっても多くの人がとりあえず知りたいことは、3.自宅充電で運用したときの費用 だと思います。先にざっくり書いておくと、2022年5月10日時点のガソリン単価・電気料金で比較して、走行距離の距離あたりで比較して、EVの電気代の方が、ガソリン車のガソリン代の、おおよそ半分です。
これは二週間のうちにさまざまな条件で試しましたが、今現在の条件だと、電気代はガソリン代のおよそ半分。言い換えれば。理論上は、同じ金額で、二倍の距離を走れるということになります。しかし、もどかしいことに、皆さんが気にしているであろう「充電に必要な時間・EV車の航続距離」の問題?課題?が立ち塞がっています。その辺りも検証しましたので、引き続きお読みいただければと思います。結論としては、EVでいいじゃないか。EVって、いいじゃないか!というのが、今の気持ちです。
”おおよそ半分” の計算は次のように算出しました。
比較対象とするガソリン車の燃費は、レンタカーやカーシェアに多くラインナップされている現行の小型のガソリン車・デミオ/MAZDA2(他ブランドだと、ノート・ヤリス・フィットのクラスですね)を選びました。*ハイブリッドではない純粋にガソリンエンジンだけで走っているクルマを前提とします。これらの車種の燃費はおおよそ、高速道路で20km/L、市街地で12km/L。これらの混合で社用車や乗用車を参考にして、15km/Lと仮定しました。燃料はレギュラーで、2022年5月はおおよそ¥160/L でしたので、これで比較します。
電気代は個々のお宅の電気契約によるので、これから出す数字は参考として我が家の中部電力との契約(深夜電力優先ではない)で計算を進めます。
小数点以下を切り捨てて、第一段階で¥14/kWh、第二段階で¥25kWh、第三段階で… と、使用する量によって段階的に変動する仕組みになっています。
MX-30 EVの電費は、メーターから読み取った値で計算して、良くて6km/kWh、悪くて4km/kwh、というところ。(有効数字の取り扱いはご容赦を…一般的なわかりやすさ優先ということで…)
燃料の単価が1Lあたりで(変動しますが)決まっていて、電力の単価も1kWhあたりで(場合分けはありますが)決まっているので、あとは、同じだけ走行した時の金額を算出します。
(詳細な計算式が見たいというリクエストがあれば、次回以降で公開しますが、)上記の前提から計算をすすめていくと、
(2週間の実走行データをもとに)仮に同じ距離を走った時にかかる金銭的コストは、ガソリン代に比べて、電気代はおおよそ半分
という結果が出てきました。これは、ぼく自身も想像していなかった結果となりました。
だだし、これは、家庭用の200Vコンセントで、寝ている間に8hかけて充電する方法をベースに議論をしており、例えば高速道路やカーディーラーに設置されている急速充電器を利用する場合、この限りではなく、電気代はもう少し割高です。急速充電をするためのカードの仕組みも少し複雑なので、今回は取り扱わないことにします。
びっくりしませんか?ぼくは正直、びっくりしました。単純に、走った距離に対してコストが半分というのはかなり魅力です。もちろん、電池残量のコントロールや、公共の充電器の場所の把握など(さまざまなアプリがあって即座に検索できる)、ガソリン車よりも少し気にすることが増えるのですが、1ヶ月も乗ってたら慣れてしまいました。それより何より、朝目が覚めたら、クルマの電池が100%というこれは気持ちいい。
35.5kWhというバッテリー容量の意味
家庭用充電設備で夜間に充電するのであれば、クルマ側のバッテリー容量は40kWh程度で十分というか、それ以上大きくても100%充電することができないので、オーバースペックかもしれません。MAZDA MX-30 EV が、世間的には大容量バッテリーと高出力急速充電器の拡充に目を向ける中、あえて35.5kWhという容量にこだわってきたのには意味があるなと感じました。現状、都会はある程度日産ディーラーを中心に急速充電器が24hいつでも利用可能ですが、地方ではそうではありません(下の図の通り)。2-3年のうちにコンビニの数くらいに増えるかというと、おそらくそうでもないと思います。ということは、地方でEVを運用しようと思ったら、家で100%に充電して出発して、可能なら出かけた先(勤務先?)に駐車している間にも200Vでいいから充電できて、帰ってきたらまた8時間ほどかけて充電して100%にしておく、みたいな運用になるのかなと思います。
片道50kmの通勤って、例えば東京だったら世田谷と八王子の往復(約40km)、広島だったら、岩国と向洋の往復(約50km)で、これは時間にしておおよそ1時間で、クルマ通勤の許容範囲いっぱいかなと思います。(片道100kmを毎日クルマで通勤している人は稀だと思います。)
自宅での充電サイクルを考え抜いた"35.5kWh”
例えば、容量が 35.5 - 40kWhのバッテリーを搭載したクルマで電池残量10%までギリギリ使って帰ってきたとき、家で10h充電すればほぼ100%となります。これが、仮に日産リーフの大容量電池60kWhのモデルだったとしたら、家で10h充電しても、半分程度しか充電しきれないことになります。こちらは急速充電スタンドに出かけて行って充電することが前提の運用になりますね。またテスラには79.5kWhという大容量バッテリーもありますが、こちらはもう、家庭での充電は、オマケ程度にしかならないということになります(元々、テスラは専用の充電ステーションをたくさん持っていて、家庭用にも独自の充電蓄電設備をラインナップしているので、それはそれでちゃんと考えがあるのは知っているとして。とはいえ地方ではまだ難しい気がします。ちなみに、イーロン・マスク氏も、バッテリー容量は79.5kWh以上は大型化するメリットが少ないという見解を出していました。*2022年4月)。これは、使ってみないとわかりにくい、非常に重要なポイントでした。
実は、家庭用充電器には、3kWの他に6kWのモデルがあります。”速い”方がいいじゃない??
3kWが遅いなら、6kWで充電すればいいじゃないか、と思うのが自然なのですが、そううまくはいきません。なぜかというと、各家で使える”電流”の値に、制限があるのです。ですから、6kWの充電器の多くには、デマンドコントローラーという出力コントローラーがついています。本体に6kWで充電する能力があっても、すでに使用している電力がブレーカー上限に近づいていれば、それに合わせて出力を制限します。ただ、うっかりブレーカーを落とすことを防ぐことはできるかもしれませんが、実際には6kW フルパワーで充電することは不可能に近いと思います。200V で6kW なら流れる電流は30A。30Aって、エアコン2台と電子レンジ、って感じですから…ブレーカーの上限が50Aだと…
家庭用ブレーカーの上限値が家庭における大電流充電を阻む
ひとり暮らし〜2人暮らしの家で30A〜40A、4人家族以上になってくると50Aくらいのブレーカーを使っていると思います。普段、ブレーカーの容量なんて気にしないと思いますが、これがとても重要になってきます。(中部電力では家庭用は50Aが最大となっています。)
多くの人は一度くらい、ブレーカーが落ちるという経験をしたことがあると思います。例えば、エアコンをつけながら、電子レンジを使いながら、電気ストーブをつけながら、ドライヤーのスイッチを入れた瞬間、家中の電気がパチン!という音とともに止まってしまう。夜だったら、真っ暗で、キッチンの上の方とか、洗面所の上の方についているパネルの大きなスイッチをグイッと上にONにして復活するあれ。最近はスマート・ブレーカーといってスイッチのない自動的に電流量を確認して復帰するものもありますが、何にせよ我々は、
そもそも、我々は電気を使いすぎてはいけないわけで
ここでイメージしたいのが、我々が普段使っている電気の量。エアコンと別室の電気ストーブ、キッチンで電子レンジを使っていたら、もう家庭用ブレーカーの上限値まで電流を使ってしまっているということです。おおよそ30Aは簡単に使ってしまっているということです。じゃあここに電気自動車の充電が加わるとどうなるかというと、200V 3kW の普通充電器を車庫に設置して、充電を開始すると、3000/200=15 15Aの電流が流れます。15Aです。
電気自動車の充電には、いうならば、30Aのブレーカーで控えめに暮らしている人の生活と、ほぼ同等かそれ以上の電流を要するのです。
家庭生活に15A(200V6kWなら30A)を上乗せできる???
現時点では家庭用のブレーカーの上限値として設定された値が、EVの充電を考慮されていない(そもそもEVの家庭用充電コンセントの設置が当たり前になったのはここ10年くらいの話だし、日本国内のEVのシェアはまだナンバーがついている車両のうち1%だそうで、全世帯の電力を管理する人たちから見たら瑣末なことなのかもしれないが…今後はどうなんだろうか…)から、どんなにお金が潤沢にあっても、制度上50A以上のブレーカーを家庭に設置するところに大きな難しさがあって、これは電力業界や建築業界を巻き込む大きな大転換を必要とする問題だと思います。
ひとり暮らしならまだしも、4-5人家族で子供がいて、っていう家庭にいま時点でEVを投入するとなると、ブレーカーや電気の契約に関する見直しや、運用上の注意が必要になると思います。見直しが必要というか、もしかしたら50Aのブレーカーを導入していても、EVの充電は難しいケースが出てくる。たとえば真夏にエアコンを夜中に2台稼働してないと厳しい季節とか。
もっと乱暴に言えば、今、電気代を¥10000くらい払ってるご家庭だと、何人暮らしだろうが、ブレーカー容量の見直しは必須になってくると思います。そして、導入するならデマンドコントローラー付きの充電器が必須となると思います。
と、いうような、この辺りのことに答えてくれる人は、日本にほとんどいない。ここがEV普及が捗らない最大の要因だと思います。
深夜電力はお得か?否か??
EVは基本的に、自分達が寝ている夜に充電するんだから、深夜割引を使おう!っていう考え方もありますが、これも慎重に決めないと、乱暴にいうと「日中の電気代が、おおよそ倍」になってしまうので、リモートワークなどで日中にもPCで作業したりエアコンを使用したり、という運用を考えると、ここにきて判断が難しいものになってきました。数年前までなら、会社で仕事している間、学校に行っている間は家には基本的に誰もいない、っていうご家庭が多かったと思いますが、今はそうじゃない。悩ましいところです。
ちなみにわたしの家では日中も今こうしてPCに向かって記事を書いたり写真や動画を編集する時間が長いことを考慮して、深夜割引プランではなく通常のプランにしました。それでも、上記のようにざっくり燃料の半額で運用できたので、満足しています。
繰り返しますが、EVと電気のことを教えてくれる人が日本にほとんどいない。
今回、マツダ株式会社様からMX-30 EVを借用して、最近問い合わせの多い電気自動車について、その運用コストや利便性についての調査をさせていただいたのですが、単なる調査というだけでなく、後々話しますがこのMX-30 EVがかなり素敵なクルマなので、自分が買いたい・買うとしたら・買うつもりで、自宅に充電用のコンセントを設置するところから始めたのですが、かなり難しさを感じました。それはまた追々お話ししようと思いますが、簡単にいうと、
EVを買おうと思っても、家充電設備について教えてくれるクルマ屋さんがほとんどいないのは大問題では?
少し過激な言い方にはなりますが、これはそんなに外してないと思います。なぜならぼく自身が、メーカー広報車を使った2週間ものテストを1日も無駄にすることなく取り組むべく、そしてやるからには数年先を見越してEVを本気で買うつもりで、地元のディーラーさんから首都圏のEV指定取扱い店、他ブランドのEV担当者、電力会社/工事業者さんまで、いろんな人と話をしながら2週間のEV生活にトライしました。最終的に一番詳しく知っていて(調べて)、都度丁寧に教えてくれたのは、コンセントの取り付け工事に来てくれた、TOENECの担当者さんでした。これで、いいのでしょうか。電気のことだから、電気屋工事やさんが知っていればそれでいいのでしょうか。でもそれだと、クルマを買いに行ったのに、運用コストについては電気工事屋さんに別途聞きに行かなきゃいけないって、ちょっとむずかしくないでしょうか。(その電気工事屋さんも、たまたまクルマに詳しい人だったから、というのはあると思います。誰でもできることではなかったんじゃないかなと思います。)
でも、わかってしまえばこっちものもの!!
色々とハードルはありましたが、見えているハードルなら飛び越えればいいだけ。いろいろ勉強したらわかってきて、結果的に、現代のガソリンエンジンの燃料代よりもEVの電気代の方がおおよそ半分ってことがわかった以上、どう辛く見積もっても、ストロングHEVとトントン、90年代のハイオクのスポーツカーの1/3くらいってことです。ということは、
EVに走る悦びがあれば、未来は明るい。
EVには走る悦びが足りないと主張する人もいます。それはエンジンが生じる音や振動や匂いが、ないからだと思います。寂しいんですね。ですが、走らせる上での悦びって、そこだけじゃないはず。どうしても生じるものを消すのは大変だけど、どうしても必要なインフォメーションとしての音や振動なら足せばいいし、でも基本的には物理的に素直なメカニズムが、結果的に把握しやすいものになると、自動車の開発に携わってきた人間として、個人的には思っています。ですから、今のEVは伸び代だらけで、すでに、MAZDA MX-30 EV も既に、歴史に爪痕を残してもおかしくない名作だとぼくは思います。類まれなるバランスの良さと作りの良さが実現した比類なきドライビング・プレジャーを持ったクルマとして登場してくれたことに、元MAZDA社員として、嬉しく思います。その話は、また今度。
MAZDA MX-30 EV は、"比類なき"ドライビング・プレジャーを持つクルマ
次の記事で詳しくお話ししますが、MAZDA MX-30 EV は、"比類なき"ドライビング・プレジャーを持つクルマです。まるで、NAロードスターの再来のような、そういう感じがします。説明がむずかしいので、今はそれくらいに留めておこうと思いますが、そうはいうものの、「その良さは乗ったらすぐわかる」とも思います。ペーパードライバーから、散々乗り尽くした玄人まで誰もが楽しめる、そして実用性も十分にある、不思議な魅力を持ったクルマです。それをお話しできる日を楽しみにしています。
EVに皆さんもぜひ乗ってみてください。わるくない。
わたしがEVの評価を始めるって話をし出したら、わたしのお客さんたちは、「自分も乗ってみたい!」と言って、サクサクとレンタカーやカーシェアリングや試乗でEVを見つけてきて、リーフやアリアやルノーの新しいやつやらを見つけてきて、「加速すごい!」「静か!」「違和感!」「重い感じ!」など、コメントをくれます。そしてぼくもリアルタイムで同じようなことを思いながら、MX-30 EVをいろんなシーンで乗りました。ぼくは、このクルマが、とても好きです。
次回は、今回のテストの教材となってくれた MAZDA MX-30 EV がいかに素晴らしいかを勝手に紹介していきます。
だって、こんな素晴らしいクルマが、首都圏で数台しか売れてないなんて、ウソだ!!
EVであることによる購入へのハードルの高さは上記で書いた通りなんですが、それにしても、クルマとしてかなり素性が良く、伸び代もあるので、ガンガン売れてほしいし売れてもおかしくないと思うのですが、話を聞くと、さっぱり、数えるほどしか売れていないらしい。理由はいくつか思い当たる節はあるのだけど、仮にそれが解消された時、必要な情報をぼくのnoteや湯チューブやHPを見ていればすぐにわかるようにしておきたい。
だって、前後重量配分が(結果的に)55:45の前輪駆動で、運転席位置はその重心に限りなく近いところにあるという、伝統的なスポーツカーに求められる資質と現代の電子制御技術の合わせ技で、ドリフトやパワースライドをしない走り方なら十分だ。駆動力もあるし、ここ最近のMAZDA車には珍しくレスポンスもいい。パドルスイッチでの駆動力/減速回生制御の選択でいろいろとお好みに走れる(個人的には強い加速度に対して強い減速度がほしいのだが、今のセッティングにしてある理由を聞いてみたい。)。観音開きの4人乗りは、クーペとしては贅沢なくらいだ。後ろの窓からの景色は、飛行機の窓みたいで、それはそれで、ワクワクする。
と、いうわけで、MX-30 EV 商品としての話は、次回以降でガッチリやりましょう。そうこうしているうちに、日産アリアとか、アウトランダーPHEVとか、日産リーフ・ニスモとか、続々とライバルに触れる機会があって、続々と魅力的なライバルが現れている気配を感じる今、MX-30 EV を応援する者としては一刻も早くやらなければ…という気持ちです。
とはいえとにかく、家充電環境に関するケーススタディを終えて、お知らせできる段階になってこの記事を書いていて、少し安心しています。それと同時に、EVに対する可能性と更なる魅力を感じています。
あとは、どうやって電気をつくるか、というところが焦点になってくるんでしょうけど、わたしのこのnoteでそれを扱うのは、少し荷が重いですね。
それでは、次回、MAZDAが放った渾身のEVについてのレポートを、お楽しみに。
自動車開発テストドライバー
古賀章成