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リジェネラティブな物語とは

リジェネラティブを感じさせる物語は、心の「再生」を描く物語といえるかもしれない。

自分の殻に閉じこもりがちだった主人公が、他者との交流を通じて少しずつ心を開き、利他的な存在へと変わっていく。そんな成長の過程を描くストーリーだ。

その中で多くの場合、「食」が変化のきっかけとなる。

そんなリジェネラティブを感じさせる物語を、今回は4作品紹介する。

  • 『食堂かたつむり』小川糸 著(ポプラ文庫)

  • 『つるかめ助産院』小川糸 著(集英社)

  • 『君が夏を走らせる』瀬尾まいこ 著(新潮文庫)

  • 『3月のライオン』羽海野チカ 著(ジェッツコミックス)

一部、抽象的なネタバレを含みます


物語りのはじまり

物語の始まりは、しばしば主人公の孤独や苦悩からはじまる。

『食堂かたつむり』の倫子は、恋人の裏切りにより一切の家財道具と声を失い、絶縁状態の母のもとに仕方なく身を寄せる。
『つるかめ助産院』のまりあは天涯孤独、お腹に小さな命をやどすも夫を失い、あてどない旅に出る。
『君が夏を走らせる』の大田は、目的もなくやるせない高校生活を過ごし、『3月のライオン』の桐山零は、親を失い1人で暮らす孤独な中学生プロ将棋棋士。

彼らは、どうにかこうにか生きていくことに必死である。

しかし、物語は出会いを通じて徐々に変化していく。

『食堂かたつむり』の倫子は食堂を開き、一日一客のためだけの、願いを叶える食事をふるまう。
『つるかめ助産院』のまりあは新しい命を受け入れる手助けをする中で、自身が子供を持つことへの覚悟を決めていく。
『君が夏を走らせる』の大田は子守に取り組みながら、どうにもならないことを受け入れ、幼い鈴香のために一生懸命になっていく。
『3月のライオン』の零は、お腹を満たすことに全力で取り組む三姉妹との出会いで、徐々に心をとかしていく。

食事により変わりはじめる

変化のきっかけは、食事のシーンにあらわれる。食を介して他者とのつながりを手繰り寄せ、少しずつ心を温かくする。

『食堂かたつむり』での奇跡の料理、『つるかめ助産院』での共同生活でふるまわれる南国の食事、『君が夏を走らせる』の大田のつくる幼児が夢中になる食事、『3月のライオン』の零が三姉妹と共に食べるボリュームたっぷりの素朴だけど温かな食事。

食事のシーンは、与え合い、エネルギーの循環が生まれるやさしい瞬間だ。

物語りが、忘れていた大切なことを呼びさます

そして、物語は再生へとつづく。主人公たちは、他者を受け入れ、喜怒哀楽を分かち合い、大切な人を助ける、利他的な存在へと変わっていく。

そんな物語を読んでいると、自分の中にある小さな傷やどうしようもないモヤモヤを思い出し、物語に惹き込まれてしまう。

そして、心のこもった食事が、私たちを元気づけ、結びつけ、再生させるとてつもない力を持っていることに、改めて気づかされる。

リジェネラティブな物語は、そんな言葉にしにくいけれど大切なことを教えてくれる。親や学校からは教わることがなかったこと。いや、教わったのかもしれないが、当たり前すぎて特別なことと捉えられていなかった。ラグジュアリーなことでは決してなく、日々の確かな温もり。それらへの渇望を、物語が感じさせる。

食事を通じて、繋がり、人は再生する。

これらの物語は、そんなリジェネラティブな変遷を美しく描き出している。

参考リンク:


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