【第1回】そう言われたらわたし、何も言えないんです:「二人、いつか稲穂が輝く場所で」
指名客は、ノルマを達成出来るぎりぎりの分だけいればいい。客が多い程、時給は上がるが面倒なのはごめんだ。そんな風にやる気のないわたしだが、客の中には奇特な人間もいる。その客、田守は私の数少ない固定客だった。
肌寒さが速度を増して近づいてきている秋の終わりだった。わたし達は「何だか温かいものが恋しい季節ですね」と挨拶をしだし、客も「ねぇ、本当。ちえりちゃんに温めて欲しいなぁ」などと言うようになる時期だ。
田守が初めて店に来たのは、半年前だ。田守は、その時キャバクラに来