三谷 晶子

作家。東京出身。著書に『ろくでなし6TEEN』、『腹黒い11人の女』。2012年より加計呂麻島、2022年より奄美大島に移住。

三谷 晶子

作家。東京出身。著書に『ろくでなし6TEEN』、『腹黒い11人の女』。2012年より加計呂麻島、2022年より奄美大島に移住。

マガジン

  • 奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話

    鹿児島県の離島・奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら住むことになった話です。

  • 【小説】it's a beautiful place

    「雪の降らない場所に行きたい」   そう願って奄美群島・沖永良部島に三ヶ月のリゾートバイトに来た奈都。  美しい海、気の置けない仲間、新たに始まる恋。  けれど、奈都には、ひとつ、忘れられない思い出があった。  自分の夢を叶えることは誰かを傷つけるの?  綺麗な海があって、友達がいて、ほかに何が必要?   けれど、このまま、悔んでいることに蓋をしたままで本当にいいの?    せめぎ合う心、忘れたい傷、諦めきれない夢、逃げたい過去と見えない未来。   それらを抱えながら眺めても、いつだって、この島の海と空は突き抜けるように青い。  「花と鍾乳洞の島」沖永良部島で繰り広げられる、人生で一度きりの真夏の青春ストーリー。

  • 【コラム】腹黒い11人の女Spin-outコラム

    わたしの二作目の長編小説『腹黒い11人の女』のスピンアウトコラムです。以前、連載していたWebマガジンがなくなったので、noteに再掲載しました。主人公・ちえりの独り言、ちえりの周りの女性たち11人、閑話休題してもう一度、ちえりの独り言、ちえりの周りの男性たち10人、そして、書籍に入れることができなかった短編小説『二人、いつか稲穂が輝く場所で』を掲載しています。

  • 【小説】ママとガール

    2作目の出版になる予定だった、不登校の中学生とシングルマザーの話です。

  • 【小説】ろくでなし6TEEN

    2008年に出版した小説、『ろくでなし6TEEN』無料公開です。

最近の記事

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【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話①】黄斑ジストロフィーってどんな病気?

自己紹介 はじめまして。現在、奄美大島在住の三谷晶子です。 東京生まれ、東京育ち。2024年現在、45歳。2012年、32歳の時に奄美群島の加計呂麻島(かけろまじま)に移住し、2021年に同じく奄美群島の中の奄美大島に引っ越しをしました。 そして、2024年6月から、視覚障害の母と一緒に奄美大島で暮らすことになりました。 さて、このnoteでは母と私がどうしてこういう暮らしを選んだのかを話してみたいと思います。 黄斑ジストロフィーという病気 私が加計呂麻島で暮らし

    • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話】⑤同行援護というサービス

      前回はこちら。 前回は、加計呂麻島から奄美大島に引っ越してきてよかったと思う理由についてお話しました。 前回では触れられなかったのですが、その中でも特に大きな理由、現在、母がお願いしている同行援護についてのお話をしていきたいと思います。 同行援護とは つまり、視覚障がい者の方が外出する際に同行してくださる方をお願いできるサービスです。 所得と障害の程度によりますが、基準に当てはまれば月に何時間など人によって決まりがありますが無料でお願いできることも多いようです。

      • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話】④加計呂麻島から奄美大島に引っ越してきてよかった理由

        前回はこちら。 前回は、加計呂麻島から奄美大島へ来た理由、インターネット回線への不安についてとコロナ禍の時の状態についてお話しました。 今回は、実際に加計呂麻島から奄美大島に引っ越してきてよかったと思う理由についてお話していきたいと思います。 インターネットの状態 人口5万人ほど、山がちな地形の奄美大島。奄美大島でもインターネットが不安定な場所はあるそうですが、私が現在住んでいる奄美大島の中心部では、光回線が通り、速度も安定しています。 母と仕事を続ける上でマストの

        • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話③】加計呂麻島から奄美大島へ来た理由

          加計呂麻島から奄美大島に来た理由 第一回目の記事はこちら。 第二回目の記事はこちら。 さて、前回まででは、母が島に来たいと言っている、という話で終わりました。 当時の私は奄美群島の加計呂麻島在住。 そこから紆余曲折ありましたが、現在は同じく奄美群島の中の一番大きな島、奄美大島で母と一緒に暮らしています。 加計呂麻島での暮らしがとても気に入っていたのに、何故、奄美大島に引っ越すことにしたのかをまずはお話しようと思います。 インターネット回線への不安 2021年当時

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        【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話①】黄斑ジストロフィーってどんな病気?

        • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話】⑤同行援護というサービス

        • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話】④加計呂麻島から奄美大島に引っ越してきてよかった理由

        • 【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話③】加計呂麻島から奄美大島へ来た理由

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        • 奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話
          5本
        • 【小説】it's a beautiful place
          29本
        • 【コラム】腹黒い11人の女Spin-outコラム
          42本
        • 【小説】ママとガール
          12本
        • 【小説】ろくでなし6TEEN
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        • 【小説】腹黒い11人の女
          24本

        記事

          【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話②】加計呂麻島から奄美大島へ来たなりゆき

          母の病気の内容、私自身の軽い自己紹介などの前回の記事はこちら。 前回は母の病気、黄斑ジストロフィ(指定難病301)についてを書いていたら記事が終わってしまいました……。 では、今回は何故、「視覚障がいを持つ母と加計呂麻島から奄美大島に引っ越して広告制作会社をやりながら暮らすことになったのか」を書きたいと思います。 母の病気を知ったのは2019年。私はその頃、鹿児島県・奄美群島の加計呂麻島(かけろまじま)という島に住んでいました。 鹿児島県の奄美大島南部の古仁屋(こにや

          【奄美大島で視覚障がい者の母と広告制作会社をやりながら暮らす話②】加計呂麻島から奄美大島へ来たなりゆき

          【小説】it's a beautiful place[25]「お前、知名以外の夜明けの海を見たいって言ってただろ。だから」

          25  それから私と美優は昨日のお礼がてらクアージに行き、拓巳を呼び出してまた飲んだ。悠一も店のマスターから今日は私達の席にいながら仕事をしていいと言われ、大分飲んでいる。私は酒があまり美味しく感じられず、一時間たってもグラスの一杯も開けられないままだった。これから、龍之介と会うのだ。会いたかった。けれど、それと同じくらいに会うのが怖かった。あのまま物別れで終わってしまえれば。そう心の何処かで思っていた自分に気付く。そんな自分のずるさが嫌だった。  美優と悠一と拓巳はわ

          【小説】it's a beautiful place[25]「お前、知名以外の夜明けの海を見たいって言ってただろ。だから」

          画家・アマラ和さんによるわたしの魂の光の絵。

          🔶 画家 アマラ和さんに2018年の誕生日から三ヶ月にわたり、オーダーで描いてもらったわたしの魂の光の絵の全文メッセージを公開します。 注:オーダーメイドの『光の絵』は現在受付休止中ですが、『光の絵』は販売中だそう。詳しくは和さんのページへ。 https://www.amarahart.com/ 🔶この絵は画家・アマラ和さんが私の魂が言っていることを読み解きつつ、三ヶ月に渡り描いてくれた私の魂の光の絵。 下の言葉は和さんが、わたしの魂から受け取った内容です。 描いて

          画家・アマラ和さんによるわたしの魂の光の絵。

          【小説】it's a beautiful place[あとがき]さあ、裸足で走れ

          2002年の夏だった。 わたしが奄美群島・沖永良部島に初めて降り立ったのは。 当時のわたしは22才で、19才の時に入った編集プロダクションを二年で退職して、友人がバーテンを務めるキャバクラでやる気のないキャバクラ嬢として働きつつたまにフリーランスでライターの仕事をしていた。 その時のことは、noteでも無料公開している半自伝的小説『腹黒い11人の女』に詳しい。 その頃、好きなバンドが沖縄でライブをやると言うので、友人と旅行に行った。そして、その時、東京の女友達が沖永良

          【小説】it's a beautiful place[あとがき]さあ、裸足で走れ

          【小説】it's a beautiful place[28]宝物はきっと、この街にもある。

          28  島を出て一週間。東京に戻った私は人の多さと空の灰色の重苦しさにいまだに慣れないでいた。習慣とは恐ろしいものだ。信号が六つしかないあの島では歩く時に信号を気にする必要など全くなかった。それに慣れてしまったせいで、私は東京で何度も信号無視をし、車に轢かれそうになった。  大学へ復学の手続きをしに行った帰りだった。出かける前、ポストに入っていた美優の手紙をバッグに入れていた私は、渋谷のスクランブル交差点前のスターバックスでそれを読んだ。顔を上げると、信号が変わった直後だ

          【小説】it's a beautiful place[28]宝物はきっと、この街にもある。

          【小説】it's a beautiful place[27]一分一秒すら惜しむような気持ちで誰かを見詰め、ただそれだけでいいと思うこの気持ちが、今ここにあった。

          27    最後の日くらい、このアパートにいよう。そう言い合って私達は残っていた焼酎を飲み干し、冷蔵庫の余りものを食べ尽くした。朝方、クアージでの仕事を終えた悠一が拓巳と連れ立ってやって来て私達に大きなアルミホイルの包みを渡した。 「俺は仕込みで見送り行けないからさ。これ、大したもんじゃないけど餞別。うちのマスターが船の中で食べろってよ」  包みを開けてみると私達がクアージでいつも食べていた、茄子のチーズ焼きやほうれん草のサラダが入っていて、私達は悠一に抱きついてお礼を言

          【小説】it's a beautiful place[27]一分一秒すら惜しむような気持ちで誰かを見詰め、ただそれだけでいいと思うこの気持ちが、今ここにあった。

          【小説】it's a beautiful place[26]「男は女を見送るもんよ。逆はありえん」

          26    別れ際、アパートの前。バイバイ、と手を振ると、龍之介は窓を開け、手を伸ばしてきた。私はその手を握った。龍之介の大きな掌に包み込まれて私の手の骨はきしきしと鳴った。硬く熱い手のひらだった。 「手、荒れてるね」 「毎日ダンボールと戦ってるからな」 「ハンドクリーム塗らなきゃ」 「だな。またこんな風に言われちまうわ」  その時、私はこれから龍之介が誰か他の女の手を握る事を想像した。嫌だった。けれど、それを口に出せる訳がなかった。島人の結婚は早い。あと一、二年以内に龍

          【小説】it's a beautiful place[26]「男は女を見送るもんよ。逆はありえん」

          【小説】it's a beautiful place[24]東京はそれ以上という気持ちをいつも刺激する街だ。もっともっと、という気持ちを持たなければいけないような気分にさせる街だ。

          24    部屋に戻って少し寝てから起き出し、私達は荷物をまとめ始めた。ダンボール二箱分の衣類を持ってきても、結局よく来たのは一箱分にも満たなかった。自分がどれだけ余計なものを持っているかを知り、私は着なかった服はどんどん捨てた。洗剤やシャンプー、食器や鍋類などは次に来るアルバイトの子の為に置いていった。島の温度で劣化した化粧品類も捨てた。私はカラーボックスに置いてあった珊瑚を手に取った。 「それ、大事そうに置いてあったね。どうしたの?」  美優が私にそう聞いた。 「綺

          【小説】it's a beautiful place[24]東京はそれ以上という気持ちをいつも刺激する街だ。もっともっと、という気持ちを持たなければいけないような気分にさせる街だ。

          【小説】it's a beautiful place[23]「じゃあ、俺は東京から来た女二人の幸せ祈るわ」

          23    あっという間に一週間が過ぎ、私が島を立つ日はもう七日後に迫っていた。龍之介から、連絡は全くなかった。自分から連絡しようか何度も考えた。けれど、出来なかった。予定を変える事など、もう出来ない。出来ない癖にもう一度会いたいなど言える筈もなかった。  美優は、時折夜一人で泣いていた。私が店から帰ってくると泣き腫らした顔で、枕元にノートを広げて寝ている事もあった。今までの様々な事を思い出しているのだろう。ありったけ吐き出せばいい。そう思いながらも私は美優と拓巳を会わせる

          【小説】it's a beautiful place[23]「じゃあ、俺は東京から来た女二人の幸せ祈るわ」

          【小説】it's a beautiful place[22]島で知り合った男達は口を揃えてこう言う。「この島には何もない」。その言葉を聞く度に私はいつも思った。じゃあ、東京に何があるって言うんだろう。

          22    翌日。店の営業終了の十分前に、龍之介からの電話があった。もう知名にいるそうだ。私はその電話に躊躇いながらも頷き、化粧を直して外へと出た。  いつもの駐車場に龍之介は車を止めて待っていた。車に寄り掛かり、足をぶらつかせている龍之介は、私を見るなりぱっと顔を輝かせた。大股で私に近付いてくる。 「来てくれんかと思った」 「どうして」 「昨日、何か嫌そうだったから」 「そんな事ない」  今日は車だから酒が飲めん、と言って龍之介はジュースを買った。奈都は何、と聞かれ、

          【小説】it's a beautiful place[22]島で知り合った男達は口を揃えてこう言う。「この島には何もない」。その言葉を聞く度に私はいつも思った。じゃあ、東京に何があるって言うんだろう。

          【小説】it's a beautiful place[21]この島にいれば容易にそんな暮らしが手に入る。永遠に海と空を眺めながら、一人の誰かを見詰める暮らし。

          21    アパートのドアをそっと閉めて、私は和泊の町へと歩き出した。タクシーはこの朝方に走っている筈もない。私はどうしようかと思いながらとぼとぼと海岸沿いの道を歩いた。老夫婦が朝の日課なのかウォーキングをしていた。二人、同じように皺くちゃになった顔で笑い合っては、手を大きく振り歩いていく。きっと、彼らはこれから朝食を二人で食べ、夫は仕事をし、妻は家事をして、夕方を待つのだろう。そして戻ってきた夫に妻は食事を出し、軽く晩酌をして、今日も一日が終わったと、海に沈む夕陽を眺めなが

          【小説】it's a beautiful place[21]この島にいれば容易にそんな暮らしが手に入る。永遠に海と空を眺めながら、一人の誰かを見詰める暮らし。

          【小説】it's a beautiful place[20]見ないようにしてきたのは、それを見たらもうどうしようもなくなってしまうからだ。それを知ったら後戻りは出来ないからだ。

          20    目覚めると美優は既に起きていた。買出しに行ってきたようで台所に野菜が積みあがっている。どうしたのと聞くと久しぶりに料理でも作ろうかと思って、と美優は答えた。奈都ちゃんも食べる、と聞かれ、私は頷く。美優は笑って待っててね、と言って台所に立った。 「店にはもう出ないけど、寮には契約終了までいていいってオーナーに言われた。だから、私、奈都ちゃんが帰るまでこの島にいるよ」  これからどうする、と私が聞く前に美優は答えた。どうやら私が寝ている間に美優はオーナーに交渉をし

          【小説】it's a beautiful place[20]見ないようにしてきたのは、それを見たらもうどうしようもなくなってしまうからだ。それを知ったら後戻りは出来ないからだ。