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【読書】50歳パートタイマー母にも理解できた〈生成AIの現在地〉。 池谷裕二さん著「生成AIと脳」

ただのおばさんだって「生成AIは来るよね」と感じている

30年前、通っていた学校がeメールを導入したとき、「こんなの必要?」と思った。携帯電話にカメラがついたときも、「使わないっしょ〜!」と毒づいた。
ところがどっこい、今となっては両者とも、「使わない日はない」と断言できるほどに身近なものとなった。スマートフォンもそうだ。10年くらいの短期間で、全人類が肌身離さず携える必須アイテムにのし上がった。

デジタルが人間の生活に喰い込んでいく様を、まざまざと見せつけられた30年間だったと個人的には思う。だから、生成AIだってあっという間に身近になる、という確信がある。しかしながら、何をどうすればいいのか、何から学べばいいのか分からずにいた。そんな時に、出会った本がこれだ。

「生成AIと脳」池谷裕二著

著者の池谷裕二さんは、薬学博士で東京大学薬学部の教授。わたしはニュース番組のコメンテーターとしての顔を存じ上げているが、柔和な雰囲気を漂わせながら、いつも的確なコメントをする人だなあという印象がある。夫が池谷さんのファン(?)で、この本を選んで買ってきた。わたしも池谷さんの本なら読んでみようかな、という気持ちになり手に取ってみた。

研究者の知見✖️ユーザーの目線。だから、おばさんにも読みやすい

「生成AIを使いこなせない学生を、自分の研究室から出すわけにはいかない」

本書に出てくるこの池谷さんの言葉は、わたしにとって衝撃だった。「生成AIは人類の敵か味方か」という議論が白熱している中、すでに「味方」として認め、太鼓判を押しているからだ。

池谷さんは生成AIが世に出た頃から、「教育者としても、わたし自身が使いこなせなくてはならない」と考え、ご自身の仕事でも学生への教育でも積極的に生成AIを取り入れ研究してきた。この『生成AIと脳』が読みやすいのは、池谷さんの研究者としての知見だけでなく、ユーザーとしての使用感も語られているからだと思う。

本文中には池谷さんが実際に使った様々な「生成AI」が登場するし、プロンプト(指示)作成のコツなど、生成AIを使いこなすスキルも存分に綴られている。巻末の「おわりに」はプロンプト作成をChatGPTに、文章作成をGeminiにお願いしたという。その全貌もとても面白かった。

一番の心配事。AIに仕事は奪われない?

AIに関して一番気になるのは、「AIに人間の仕事を奪われるのではないか」ということではないだろうか。池谷さんは、「奪われることはないが、人間の働き方は変わる」と明言している。

例えばカウンセラーや医師、学校の先生。AIは嫌な顔ひとつせず、あらゆる話に耳を傾けることができるので、今後置き換わることは十分にあり得る。ただ、同じ空間に身を置いて目と目を合わせて会話をしたり、体温のこもった温かい手で患部をさすったりできるのは、やはり人間。
今後の人間の仕事は、より「人間らしい」、生身の人間だからこそできる内容にシフトしていく。だからこそ、職業選びには慎重になるべきとの指摘もあった。

また、生成AIが提供するのはあくまで「選択肢」であって、そこから選ぶのは人間側なのだ。それにAIは間違い(ハルシネーション)を犯すこともある。私たち人間は適したものを選び抜くセンスや間違いを正す能力を、今後も磨いていく必要があるのだ。ライターやデザイナーなどの仕事にも、大いに関係することではないだろうか。

この話には心の底から安心したし、「AIとの共存」(本書では「パーソナルAI」についても詳述)がくっきりとイメージできた。

AIが抱える問題点、各界での活躍など、生成AIの〈現在地〉を学べる良書

その他にも、生成AIの 「現在地」を知ることができる情報が多くあった。
中でも、「AIが抱えている問題点」や、「各界でどんな成果を上げているか」を知ることができたのは大きい。
「AI兵器」という現実世界の脅威、一方で「AIが人類を襲う」といったSF的な心配事に対しても、池谷さんは持論を述べている。それも、わたしにとっては予想外の内容で、興味を惹かれた。

ニュースや新聞、SNSなどで知り得た「生成AI像」とは、少し変わってくる気がする。「生成AIについて知りたい」という方に、ぜひ勧めたい。

また、本書は子育て中の人にもお勧めできる。子どもの進路を考える上で、大いに参考になるのではないだろうか。

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