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【49歳のつぶやき】プラスチックと所作

四半世紀くらい前だっただろうか、友人に勧められて小津安二郎監督の「東京物語」を観た。
とても、とても、良い映画だった。

中でも、まだ若かった私が衝撃を受けたのは、出演している女性たちの所作がとても美しいことだった。

立ち上がる、畳に正座する。
お茶を茶の間に運ぶ、お茶を口にふくむ。
歩く、戸を開ける。

なんてことない、日常の生活をこなすだけの動きなのに、
妙に美しいのだ。
背中がまっすぐで姿勢が良いのはもちろん、流れるような動きの中に、静と動のメリハリがある。
「うわあ、なんて綺麗な動きなんだろう」と感動した。
今でもあの時に感じた、心の振動はよく覚えている。

その時は特に、映画の中の女性たちが美しい所作をものにしている理由を考えなかったけれど、時を経て、経験値が上がってきた49歳には、その理由がうっすら見えてきた気がしている。

当時はまだプラスチックなど「壊れにくいもの」が、少なかったからではないだろうか。

ガラス、陶器、漆器、木材。
大事に扱わないと壊れてしまうようなものが、壊れてしまうようなものしか、身の回りになかったのだろうと思う。

一つ一つの生活道具には、作り手の想いが込められ、使い手にもその想いが自ずと伝わって、物に対する敬意のようなものが形成されていたのだと想像する。

現代人って、ーー私も含めーー、本当にガサツな動きをしていると思う。

物が壊れにくくなった、
安価でいつでも買えるようになった、
作り手の顔が見えなくなった、
物に美しさを見出さなくなった。

きっと理由は色々あるだろうけれど、私はそんな風に考えている。

花道や茶道を習うのも、美しい所作を身につける方法の一つでしょう。
でもそれ以上に、まずは自分の生活を「美しいと思う物に囲まれ、物を慈しむ」方向に変えることが近道のような気がしている。

物への愛着や敬意が、美しい所作を生み出すーー50歳を迎える前に気が付けて良かったと思う。

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