わたしと炎
炎が灯っている
小さいながらも
青くやわらかな光で全体をつつみ
ゆらゆらと大きく揺れながら
楽しそうにそこにいる
わたしはその炎を
側に感じている
側にいるとなんだか楽しくて
わたしはしょっちゅう炎と
縁側でねっ転がって
川の水の音や風の肌触りを
感じながら
ポカポカと日向ぼっこをしていた
畳の匂いと雨上がりの草木の匂いを
スーハーって
嗅ぐのが大好きだった
わたしたちはいつも一緒にいた
でもね
炎のことを忘れてしまって
気がついたら
消えかけていたことがあったんだ
急いで駆け寄って
ごめんねって言うと
ぼぉっと燃え上がり
まるで何か言いたげに
その日は赤く
ジリジリと燃えていた
ある時
突然の暴風が襲い
弱っていく炎に
わたしは必死に覆い被さり
ある時は
土砂降りの雨になって
わたしは大きな傘をさしに走った
そしてまた
ある時は
赤い炎が立ち上り
まわりのすべてを焼きつくすかのごとく
熱く熱く燃えていた
近寄れずわたしは
ただ立ち尽くした
もう大丈夫だよ
ここには誰にも入らせないよ
わたしが叫ぶと
様子を見回すかのように
少しずつ炎は小さくなって
赤いままの姿で揺れ続けていた
わたしは炎をよく知っていた
どうしたら炎が喜び
どうしたら炎が怒り
どうしたら炎が落ち着くのか
スラスラと話すことができた
時が経ち
炎と一緒にいることが
次第に減っていった
そんなある日
わたしが久しぶりに戻ると
炎は消えてしまっていたんだ
いつの日からか
わたしは炎のことを
忘れてしまっていた
いくら火を灯そうとしても
炎は戻ってきてはくれない
炎がいた場所もここなのか
どうかすら
わたしには
分からなくなっていたんだ
あんなに一緒にいたのに
わたしはひとりぼっちで
寒くて寂しくて
やっと気づいたんだ
いつも炎がわたしを温めてくれていたことに
わたしは炎がどこかに
行ってしまったのだと
あちこちを探し続けた
ある人はあっだと
またある人はこっちだと
そして、またある人は
自分で探せと言った
出会う人に聞いているうちに
わたしは炎の色も、匂いも、温かさも
忘れてしまい
何を探しているのかすら
わからなくなってしまった
途中、炎を見せてくれた人がいた
わたしはようやく見つけたと喜ぶと
その人は言い切った
これはあなたの炎じゃない
どうしてわかるの?
わかるよ
だって、僕の炎だから
普段は紫色をしていてね
僕が椅子を作るのに夢中になると
ぼおぼおと炎を上げて喜んでいるんだ
熱くて全体に強い光を放つけど
飛び跳ねている
可愛いやつなんだ
でも僕が僕に嘘をつくと
途端に睨みつけるように稲妻のような
形に姿を変えて見せるんだ
そしてね、、、、
その人は炎のことを詳しく教えてくれた
その人は炎をよく知っていた
でも、わたしの知っている炎では
ないような気がした
分からないのだけれど
そう感じた
ね、この炎は僕の炎だよ
わたしは愕然として
その人に尋ねてみた
ねえ、どうしたらわたしは
わたしの炎を見つけられるの?
僕には分からないよ
あなたが一番知っているはずだよ
わたしが知っているって?!
わたしは分からないから
探しているのに
そんなわけないじゃない
そうかな?
わからないと思いこんでいるのは
あなただよ
あなたは炎を感じてみようとしたの?
見ようとしてもみえないよ
感じてみるんだよ
あなたにはわかるでしょう?
ああ
わたしは一体何をしているんだろう
わたしのどこかで
この炎はわたしのではないと
感じていたじゃないか
わたしは知っているんだ
わたしの炎を
感じてみよう
わたしの炎を
それから
何日も何日も
わずかに感じる炎の気配をたよりに
わたしは待ち続けた
わたしは外で人と触れ合うことも
やめなかった
人の炎に出会うと
何か大事なものに触れたように
わたしは反応して
わたしに炎を感じさせてくれた
わたしはたくさんの人との
出会いによって
ようやく炎をぼんやりながら
感じられるようになった
炎はいなくなったのではなかった
ずっとここにいる
わたしは知っていて
見ないふりをしていたんだ
こちらをちらちら
様子を伺うかのように
ひかえめな深いあおの色の炎が
目の前に現れた
姿形は変わっていたけど
わたしの炎に間違いないと
分かったんだ
わたしは
観るだけでなく
感じることを取り戻した
わたしは嬉しくて涙を流し
駆け寄り炎を抱きしめた
炎の全てを感じて
もう2度と
消えないように
忘れないように
大事にしよう
わたしは決めた
わたしの炎を
知っているのも
守れるのも
わたしだけだから
わたしはあなた
あなたはわたし
ありがとう