インフィオラータ【詩】
「インフィオラータ」
風の暖かくなった
空から鳥が落ちてきた
インフィオラータを知っているか
無数の花びらで地上に大きな絵を描くのだ
極楽鳥や孔雀は空から落ちてこない
カラスとハトの
いつのまにか 大雨だ
足元を埋め尽くした
灰色は
濁流となり
隙間を縫って
ネズミが疾走する
二センチの積雪で 電車が止まり
三十人も怪我人の出る東京だ
たちまち
足をすくわれ
落下する
カラスの嘴に
脳天を
割られ
鮮やかな
紅が
いくすじも
浮いて
は
のみこまれる
生暖かい空だ
灰色から
ぬっくと立ち上がった男がある
流されていく都会人をどんより曇った眼で眺めていたのは
今日がはじめてではない
長らく行く当てもなくさまよっていた男だ
舶来の祭りをするからと
住み慣れた公園の青テントを追われた男だ
灰色の
濁流の上を
花吹雪
が
散り敷く
男の復讐
達成される/されない
青い空の下で
男はそれがあることを知らない
復讐を描く地面
男は狂喜するが誰も見ていない
無数の花の死骸が描く
カルメンシータ
生ける骸は
生暖かい風の中に朽ちていく
(2005-03-18)