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杏子目線で切り取った #白い巨塔

通して観てみれば、結局、「ヒロイン」は正妻の杏子でもなければ、愛人のケイ子でもなく、里見脩二だったなあ、と思う。
財前五郎と里見修二がどれくらい強い絆で結ばれているかをこれでもか!!と見せつけられた。男同士の友情はいいなあ。私は女だから、女同士ではこうはならないなあ・・・と思う。(もちろん全く別の形として女同士の友情もいいものです。)

財前の外科医としての才能に惚れ込んでいた里見と、いついかなる時も医師としての良心を失わない里見を心から信頼していた財前の話は、別のnoteに書くこととして、今日はおそらくどーでもいいと思われる杏子目線で切り取った「白い巨塔」について書きたいと思う。

ネタバレするので、知りたくない人はスルーしてください。

***

財前と杏子って光源氏と葵の上じゃない?

今回のドラマを観て、一番共感してしまったのは杏子だった。
「財前と杏子って、『源氏物語』における光源氏と葵の上やん!」と思ったからだ。

私は「源氏物語に出てくる女君の中で一番好きなのは誰ですか?」と聞かれたら「葵の上と雲居の雁です」と答えるくらい、あんまり素直じゃない美人でお嬢様育ちの正妻ポジションの女が好きだ。だいたい報われない不幸な役回りであることが多い。(雲居の雁は地味だけど割と幸せな人生だったと思うから例外的だけど)

(光源氏と葵の上の関係性については話しだすと止まらなくなっちゃうので、わからない人は自分で調べてください。共感してくださる方だけ共感していただけたら嬉しいです。)

1話から4話までをさらっと観ていると、杏子は「大学教授夫人」という肩書きに極端に固執する高慢ちきで冷淡な薄っぺらい女を前面に出していい感じにヒールを演じているけど、最終話(5話)でケイ子と対峙して本音で話すシーンで大どんでん返しが!

杏子のこと、教授夫人になりたい肩書き至上主義の女だと思い込んでいたので、うわあああああ・・・ってなってしまった。

なぜ杏子は財前が大学教授で居続けることに固執したのか?

杏子は度々財前に対して大学教授のポジションに居続けることを強要する、固執するような発言をしている。

<4話>
杏子「もし裁判に負けたらどうするつもり!?」(怒り爆発)
財前「負ける…そんなことは絶対ないよ。そのためにはどんな手だって打つ」
杏子「手を打つって…どんな?」
財前「それを考えるためにこんな…!!」(怒りを押し殺して)
杏子「もし教授の肩書きがなくなったら…!」(絶叫)
財前「君に迷惑をかけるつもりはないよ」(冷たく言い放つ)
<4話>
杏子「あなたが外で何をしていても私には関係ないけど。私たちそういう夫婦だし。ただ大学教授だけは辞めないで。私とお父さんをがっかりさせないで」

これだけ聞くと、杏子って本当に強欲で自分のことしか考えていない最低で面倒臭い女だなーと誰もが思うと思う。私もそうだった。
ブレないなー。肩書き好きだなー。お金持ちが次に欲しいのってやっぱり名誉なんだなーって。こんな面倒臭い妻がいたら、そりゃ、財前も愛人(ケイ子)に走っちゃうよなーって。

でも最終話(5話)に入って、財前の膵臓癌が発覚して、死の間際を悟ると、杏子は一方的に嫌っていた財前の母にも電話をして財前の病気のことを打ち明けるし、愛人のケイ子が勤めるバーにもわざわざ出向き財前の命があとわずかであることを告げる、という行動に出る。

<最終話(5話)>
杏子「私、自分でもどうしてここに来たのかわからない。五郎さんに何人女がいようと構わない。だってあの人の望む人生を叶えてあげられるのは私しかいない。あの人を守れるのはあなたじゃなくて私なの」

ケイ子「わかっています」

杏子「初めてお見合いの席で五郎さんのことを見た時、どうしていいかわからなかった。あっという間に好きになって。私じゃなくて財前の家と結婚したとわかっていても、五郎さんと一緒になれるのが嬉しかった。結婚すれば、いつか本当の夫婦になれると思っていたの。あなたのことを知るまでは…
明日、くれない会があるの。教授たちの婦人会が。ほら、そこに財前教授の妻として出席しないと。いつものようにしていないと駄目だから…夕方まで病院には行きません」

本人同士の愛情に基づく結婚ではなく、完全に財力目当ての政略結婚であることを自分に納得させなければならない杏子。
外に女がいることも黙認しなくてはいけない杏子。
自分の役割を全うしなくてはいけない杏子。
葵の上だなあ…

愛する夫の死の間際、一分一秒を惜しんで最期の時間を共有したいはず。そして妻にはその権利がある。愛人にそれを譲る必要はない。でも、自分の感情と裏腹に、夫と夫の最愛の人が最期の時間を持てるように仕向ける。全て夫のために。

なかなか出来ることじゃないよなあ。

杏子、いい女だなあ…
ケイ子もいい女だから、財前は女運が良いと思ったし、女運だけじゃなくて、彼の周りにいる人はなんだかんだ、財前に対して深い愛情を持った人が多く集まってる。里見然り、又一然り、東教授然り。財前にそういう人を惹きつける魅力が備わっていた証拠だろう。

財前の病気が発覚した時、肩を震わせて泣く杏子を見て、押しとどめていた財前への愛情が溢れ出しているのわかって、涙が出た。

最後まで「財前教授の妻」として気丈に振舞おうとする杏子に全力でエールを送りたい気分。

***

さて。
ここまで来て、「なぜ杏子は財前が大学教授で居続けることに固執したのか?」という最初の問いに戻りたい。
そこで、私は録画してある2話を観直した。

<2話>
又一「離婚や。五郎くんが教授になれへんかったら離婚や。(中略)お前かて教授の嫁になりたかったんやろ?」
杏子「そうやけど…」
又一「ほんなら決まりや。五郎君には悪いけど」
杏子「悪いことなんかない」
又一「それはどういうこっちゃ?」
杏子「パパと私に放り出されても拾うてくれる人はいる。五郎さんには」

杏子に対して「肩書き至上主義」のバイアスがかかっていたから、軽くスルーしていたけど、財前が教授になれなかったら、教授になれても辞めることになったら、親に離婚させられるからどうしてもそれは阻止したかったんだな、と。
どうしても財前と離婚したくなかったんだな、と。
愛されていなくても一緒になれて幸せだったから離れたくなかったんだな、と。

財前と杏子ってお見合いの段階では完全にお互い一目惚れ両想いでしょ?

そもそも、1話のお見合いシーンの財前の様子と、5話の杏子のお見合いの際の自身の心情の吐露から推察するに、お見合いの段階では二人はお互いに一目惚れしていて両思いだと思う。

お互い好ましく思っていたのに、普通だったらそのまま「普通の夫婦」として良い関係を育んでいけたはずなのに、どうしてこうなってしまったのか。

*お互い素直に自分の気持ちを伝えられなかったから。
*大前提がそれぞれの思惑と利害が一致した政略結婚だったから。
*お互い自分の役割と目的を果たさなくては!という思考に囚われすぎてしまったから。
*杏子とギクシャクしているうちにケイ子という良き理解者が現れてしまったから。

人はやっぱり素直に人の話を聞く、素直に自分の気持ちを伝える努力を怠ってはいけないな、と思った次第です。

私の好きな作家の江國香織さんが「自分の作品の登場人物がどこかでそのままひっそりと日々の生活を続けているのではないかと思うのです」という趣旨の話をしていたのを思い出した。

財前亡き後の杏子がどうなったのか、知る由もないですが、深い悲しみから立ち直っていると良いな、と思ったり。
(ケイ子はなんだかんだ大丈夫な人だと思う。財前から来世でまた会う約束的な言葉までもらっちゃってるしね。強く生きていけるでしょう。)

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あきこ
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