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紙と老いと将来と

 転職をしてすぐに目標管理シートを作成するように言われた。いくつか項目があるなかでSDGsに関することも目標として立てねばならず、ふた周り以上離れたベテランの先輩に相談をしたところ「うちの会社はペーパーレス推進だからそれを書いたら?」とアドバイスをくれた。考えるのがめんどくさかったため、そのまま「ペーパーレスに努める」旨の文章を作成した。私の横で先輩は「え、なんでぇ〜」とミスプリントをじゃんじゃん出しているコピー機と格闘していた。

 無駄なコピーや紙を使うのは良くないことはわかるが、目先のことがSDGsに繋がるかどうかはあまりわからない。むしろ我ながら極端で幼稚な発想だと思うが、このままペーパーレスを推進し続けたらいずれ紙媒体や書籍が贅沢品になってしまうのだろうか、と考えてしまう。技術革新や時代の流れで廃れていく職種は確かにあるが、今以上に紙媒体の業界が縮小していくのは悲しい。

 紙媒体に携わっているわけではないし、私が憂いたとて変わらないのもわかっている。でもパソコンとずっとにらめっこして書いた三万字の卒業論文は、印刷・製本して初めて達成感を得られた。スクロールしていた画面ではわからなかった、初めて自分の言葉が形になった時のずっしりとした重みと感動は本当に忘れられない。

 紙媒体だからこその偶然の出会いというものも素敵だ。以前母とふたりで金沢旅行に行ったとき、帰りの特急で母は地方紙を読んでいた。偶然新聞には益田ミリさんの「母と金沢旅行に行ってきた」という内容のエッセイが載っていた。エッセイに描かれていた金沢での観光先も同じだったこともあり一気に親近感が湧く。旅行中、沢山ネット検索をしては金沢について調べていたが、アナログな偶然の出会いに感動し、金沢旅行での1番の思い出となった。
 
 時代の変化による成長や衰退はつきものであり、何を憂いても私はただ目の前のことをこなすことしかできない。ただ、時代の流れに抗わずに前を向くこと。自らの経験則に当てはめて今の価値観を否定しないこと。「老」という字が近づいているからこそ意識をしておきたい。

 先日、仕事で100ページほどのマニュアルを作成した。隣席の先輩はマニュアル完成を聞き、すぐに印刷しようとしたので見本として印刷しておいたものを渡しておいた。「先輩、ペーパーレスですよ」

 

#未来のためにできること

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