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【72】自分らしく生きることを強要される残酷な現実『無理ゲー社会』橘玲

無理ゲーとは、攻略が極めて困難なゲームのことで、現代人が直面している暴力的で対処不能な現実を表現しています

読んでいて暗くなる事象やデータが多く掲載されていますが、「無理ゲー社会」が進行していることがよくわかるものをいくつか取り上げます

まずはアメリカで増えている「絶望死」です

世界中で平均寿命が延びているのに、アメリカの白人労働者階級(ホワイトワーキングクラス)だけは平均寿命が短くなっている。その原因がドラッグ、アルコール、自殺だとして、これを「絶望死」と名づけた。(中略)「アメリカの白人は高学歴と低学歴で分断されている」

社会を分断しているのは人種ではなく、知能であることを示しており、トランプ政権時代に進行した「分断」を物語っています。後述するように「知能は努力で何とかなる」という考えが無理ゲー社会を支えています

また、日本でも「貧乏な男はモテない」という身も蓋もない事実があります

全国の1万2000人に恋愛、結婚、出産について質問し、1歳ごとに集計した「2015年社会階層とライフコース全国調査」から、男性の「個人収入」と「交際、結婚、出産育児経験の有無」の関係をまとめた(中略)その世代でも「夢」の実現可能性は年収が多いほど高くなり、年収が少ないほど低くなる。さらに、年収による「恋愛・結婚格差」は若いほど大きい

これらの他に印象的だったのが、「自分らしく生きる」ことが強要されているという主張です。若者たちが「夢」に押しつぶされていく実態を「ドリーム・ハラスメント」と名づけられています。ここには、夢を持たせることで勉強や仕事のモチベーションがあげたいと言う、大人の都合も一因だと言われています

このように「無理ゲー社会」が進行している背景として著者が指摘しているのが、世界や日本のリベラル化であり、「私が自由に生きるのなら、あなたにも自由に生きる権利がある」という考え方です。これが実現した世界では、身分制などの個人の成功を著しく制約するものがなくなるため「努力すればどんな夢でもかなう」と信念が一般化します

この信念は裏返すと「夢がかなわないのは努力が足りないから」という自己責任論となります

しかしながら、努力の基盤となるやる気や集中力などのパーソナリティは、遺伝率などに影響される部分が多く、家庭環境で挽回(親が教育に注力しても)できないという遺伝行動学の研究結果も提示されています

無理ゲー社会の確実な攻略法は今のところありませんが、本書を読んでそのヒントだと感じたのは以下の点です

陰謀論やフェイクニュースがあふれているのは、無理ゲー社会において、現実を変えることできないため、自分の認識を変えて自尊心を守るために発生している

不都合でも、厳しくても「事実を事実として正確に認識すること」が無理ゲー社会で戦っていくためのスタートラインだと感じました

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