【64】優等生のまま革命は起こせない『スペードの3』朝井リョウ
トランプゲーム【大富豪】でジョーカーに唯一勝てるカード
数字の3はゲーム内で最弱のカードだが、見せ場があれば最高の存在感を発揮する。あくまで見せ場を作ることができれば
ミュージカル女優つかさのファンクラブを束ねる優等生の美知代
つかさに憧れる美千代の同級生、地味で冴えないむつ美
ライバルと比較され、かつての人気を失いつつあるつかさ
3人の女性が主人公の3部構成で、登場人物は共通ですが、視点が変わることで物語がサクサク進んでいきます
もう一つの特徴としては、主人公が大人の現代パートとそれぞれが学生時代の過去パートが繰り返されることです
朝井リョウさんが社会人を主人公に据えたことが初めてのようですが、学生時代のパートがあることで、他の作品とテイストが違うようには感じませんでした
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読んでいて「優等生」というキーワードが気になります
「あなたは、まわりから迷惑をかけられることも、まわりに迷惑をかけることも、あまりなかったのではないですか」
みんな、生まれたものの背景に物語を求める。そこに物語がないと、その結果生まれたものに深みなんて伴うはずがないという目で、貪欲に物語を求めてくる。
優等生という言葉は、賞賛ではなく揶揄として使われることが多いような気がします
外国で働く日は浅いですが、日本は揶揄としての「優等生」がとても多い国だと感じます
人に迷惑をかけずに生きることが美徳とされ、そこから踏み外すことは許されてないことが暗黙の了解となっています
これらの背景に、学校の教育制度があることは間違いないと思います
学校制度は、もともと優秀な兵隊を育成することが、戦後は優秀な工場労働者を育成することが目的だったと言われています
そのため、上からの指示に対して異論を出さずに、言うことを聞く人材を大量に生産することが、目的となっていました。そのために、学習の理解スピードは一人ひとり違うにもかかわらず、40人程度を一律で教えるという学校側のメリットを重視したスタイルが維持されています。以前であれば重要であった「集団行動を学ぶ」という意義も今となっては虚しいものに聞こえます
集団行動が必要とされた産業が高度化したことで、工場労働のような単純作業は、海外の安価な労働力、ロボットやAIに置き換えられています
日本の地位が相対的に低下するなかで、「優等生」の多さが足枷になっているように感じます
トランプゲーム【大富豪】では、革命というルールがありますが、優等生のまま革命を起こすのは難しいのでは、と読んでいて思いました
トランプ大統領による世界のゲームは終わりを告げましたが、革命を起こすのに必要なものは変わらないような気がします