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【67】多様性は魔法の杖?『正欲』朝井リョウ

少なくとも7時間は寝ないと頭が働くなります

健康管理が出来ているというと聞こえが良いですが、切実な問題として寝ないと何も考えられなくなるので、問答無用で寝るようにしています

仮に睡眠時間が足りないと、仕事の効率低下、残業で取り戻そうとする、睡眠時間の更なる低下という、悪循環に陥ることが目に見えているので、諦めて寝てしまうのが良いと考えているからです

それにも関わらず、睡眠時間を削って一気読みしてしまいました

2021年3月26日に発売されたばかりの朝井リョウさんの最新作です

自然豊かな公園で「パーティ」と称された3人の小児性愛者たちによる撮影行為が事件として摘発された。事件が発覚しないよう巧妙な手口で、情報漏洩を厳格なルールで防ぐ徹底ぶりに悪質さが窺える。3人のうち1人は容疑を認めているものの、残る2人は黙秘と否認している

「一般的」な視点から見ると、物語の結末はこのような事件になります。しかしがら、その範疇では捉えられない人たちの「正欲」が背景にあり、全く違う物語がそこには存在しています

キーワードは「多様性」です

多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると感じています。自分と違う存在を認めよう。他人と違う自分でも胸を張ろう。自分らしさに対して堂々としていよう。生まれ持ったものでジャッジされるなんておかしい。(中略)想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする、そんな人たちが良く使う言葉です。

ストーリーには、小児性愛者、LGBT、引きこもり、マイルドヤンキー、youtuber、不妊治療など現代の新しい言葉が出てきます。それらを含めて現代を包括している言葉が「多様性」になります

多様性という言葉には全てを受け入れる、全人類博愛主義のような響きがありますが、本書からはその傲慢さや稚拙さを考えさせられます

「多様性」という考え方は、あくまで一つの考え方・偏りでしかなく、「多様性を重視しない」という考え方を排除するものです

また、多様性と言いつつも、本当に理解できないことには目を背けることは現実にもあることだと思います


読んで思い出したが、凪良ゆうさんの『流浪の月』です

事実と真実は必ずしも一致しません。それを隔てるレッテルはいたるところで私たちを生きにくくします

それを助長しているものにマスコミやSNSによる評価があります

事件の概要という「事実」と正欲を持った彼ら・彼女らの「真実」は別物であることは疑いようがありません

現実の世界でもマスコミやSNSによって助長された「事実」ばかりに目を奪われていることに怖く思いました




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