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ショート小説

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5分程で読める『#ショート小説』と、1000文字ぴったりの小説『#1000文字の物語』を書いています。
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2024年8月の記事一覧

ショート小説『ひきこもりゲーム』

「Home Homeってゲーム知ってる?」 「え?」 「ホムホム。聞いたことない?」  ホムホムとの出会いは高校3年、外に出るのが嫌になる暑さの続く夏の日だった。前の席のクラスメイト(ホムホム上でのアカウント名は「カズサノスケ」)からホムホムを知らないか聞かれた時だ。  部活も終わり、受験勉強しかすることが無かった、あの時に出会った。  ホムホムは、家にいる時間が長い方が勝つというシンプルなゲームだ。1日の内、どのくらい家にいたのか、それを競う。  猛暑の続く夏の日をでき

ショート小説『タワマンキャンプ』

「ねぇ!タワマンキャンプに行きたい!」  来年中学生になる息子が夕食のハンバーグを食べながら言う。 「何キャンプだって?」 「タワマンだよ!タワマン!」 「タワマン…って、30年くらい前に流行った、あのタワマンか?」  息子は箸を動かすのを止め眉間に皺を寄せる。 「よく知らないけど、友達が今度行くんだって!夏休みどこにも行ってないんだから連れてってよ~」  息子の話を聞きながら、携帯の検索バーに「タワマンキャンプ」と入力する。 『タワマンキャンプとは、タワーマンションキャン

ショート小説『ハラスメント』※1642文字(約4分)

 スマホの通知ランプが緑色に光る。  メールが来た合図だ。  上司とのやり取りはメールのみで行う。本文は無く、添付ファイルのみ。作業の目的、期限、内容、注意事項、全てが書かれている。始めは違和感があったが、今ではすっかり慣れてしまった。  私が入社した15年前は、出勤するのが当たり前だった。出勤し、朝のミーティングを行い、会議室に集まり、作業指示を貰った。直接。顔を合わせて。  ちょっとした雑談も、昼休み後のうなだれた空気も、定時後の開放的な気分も、愚痴を言い合う飲み会も、

ショート小説『リスキーさん』※1282文字(約3分)

「リスク管理表は確認していたのか?」と、課長がいつものように人を試すような声で聞いている。2つ下の後輩が手を大きく動かしながら説明をしているが、課長は腕を組み、眉間に皺を寄せたまま動かない。  隣に座る同僚が、目線をパソコンの画面に向けたまま顔を少しだけ寄せてきて「またリスキーさん怒ってるよ」と小声で言う。  課長をよく思わない社員は、陰で課長のことを「リスキーさん」と呼んでいる。3か月ほど前の出張研修という名の東京観光の後から、やたらと「リスク管理が」と言い始めたからだ。