見出し画像

技術志向から科学志向へ

要は「手段と目的」についての話です。

日本を代表するマーケターの一人で、USJを立て直した森岡毅氏は著書で、日本企業の停滞は「技術志向」に原因があり、マーケティングをおそろかにしていたから、と指摘しています。

「技術志向」とは、簡単に言うと「液晶パネルを発明したからTVを作ろう」という発想です。新しい技術は消費者が喜んで受け入れてくれました。しかし技術が成熟してくると、圧倒的な新製品は生まれにくくなります。作る側は小さな差別化にこだわるようになると、やがて消費者のニーズからズレていきます。その最たる例が携帯電話でしょう。
(第1章から一部抜粋)

私自身もこれまでのキャリアは「技術志向」のディレクターでした。VRの黎明期に360度動画を作ったり、SNSが盛んになるとバズ動画を作るなど、流行りのコンテンツを次々と追いかけ、クライアントに提案してきました。

しかし、それが売り上げに貢献したり、世の中に大きなインパクトを与えたかといえば、否です。手段が先行し、「本来の目的」を追わなかった結果、無数のコンテンツは星の彼方に消えていきました。

2022年現在、動画やSNSなど、コンテンツにまつわる技術は成熟期を迎えていると言えるでしょう。PCやスマホのスペックはここ数年間大きく変化しておらず、SNSも小幅なアップデートを繰り返している程度です。

一方でコンテンツ自体は、技術と経験に裏打ちされたプロよりも、素人やインフルエンサー未満が、素朴な感覚で発信したコンテンツの方がよりリーチされ、信頼を得られるようになっています。

コンテンツの総量は増えつづけているものの、質に関しては、NETFLIXのような資金力に頼る以外の方法で、なかなか斬新なものが生まれにくくなっている印象があり、玉石混同でカオスな状態です。

技術と科学の関係

先掲の著書で、当時USJは低迷しており、森岡氏に再建を託した当時の社長は、クリエイティブ中心のやり方から脱却し、科学的に確率高くヒットを生み出したいと述べていました。

ところで「技術」と「科学」の違いは何か。文部科学省のHPではこう書かれています。

「科学」とは、一般に、事がらの間に客観的なきまりや原理を発見し、それらを体系化し、説明することをいい、「技術」とは、理論を実際に適用する手段をいう。(出典:文部科学省HP

もう少し踏み込んだ説明を、哲学者のミルが行っています。

「技術」は、達成すべき目的を自らに提示し、その目的を明確なものにし、その目的を科学に引き渡す。「科学」はその目的を受け取ったら、それを検討すべき現象や結果として考察する。そして、その原因や条件を突き止めたら、目的達成を可能とする環境要因の組み合わせに関する一般命題とともに、技術へと送り返す…(後略)
(出典:ミル『論理学体系』/岩波文庫刊『功利主義』に所収 )

ここで疑問があるとすれば、例えば客観的な数値データがあっても、それをどう解釈するのか、意味を見出したりするのは人間の主観である、という点でしょう。これにはいろんな議論や考察があるかと思いますが保留にします。(下記の著書の中で「科学はマーケティングなのか」として一章割かれています)

結局は「科学=神のお告げ」になり得ないから信用ならない、そもそも「科学」なんて難しくてとっつきにくいとか、自分の領域を侵されたくない、そのような保守的な精神が、派手で便利で単純な手段に傾注してしまう一因でしょう。

とはいえ、科学は「普遍的な人間性へのアプローチ」であることは確かです。人の考えはそれぞれであることを認めながら、本来の目的を追求し、結果を出し、人間らしく生きていくために、今後は技術と科学のハイブリッドを追求していきたいなぁ…と考えています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?