AIが憲法を変える可能性
憲法改正の是非については様々な議論がなされている。
今回はAIと憲法という視点から現在の日本国憲法をまとめていきたい。
■AIとは
AIとは人工知能のことであり、ビッグデータとのかけ合わせにより人類では見つけ出すことができない相関関係などを見つけ出し、人類の発展に役立つとされている。
AIの特徴
・ビックデータの分析により、集団の属性や相関関係をとらえるのがうまい。
・過去の学習の蓄積の上で成り立つため、ある意味未来の技術でありながら、過去に縛られる。
※ここでのAIは、AGIのことではなく、主に狭い意味でのAIのことを指す。
■AIがもたらすかもしれない憲法の変化
(かなりざっくりとした記述です。実際に可能性が低そうなものも多いと思います。法的な解釈など詳しく学びたい人は記事の最後に挙げた本を参考してください。)
テーマ①:個人の尊重
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
AIの下す判断はセグメント化されたもの。つまり、AIの下す判断はどこまで細分化できる技術が発達しても、結局はその人の属性により判断を下すことになる。第13条の「すべて国民は、個人として尊重される」とは相反する。
テーマ②:知的財産権
第29条
第1項 財産権は、これを侵してはならない。
AIの作成した楽曲や絵画の著作権はどうなるのか?という問題。AIの作品に著作権が生じるのだろうか。
テーマ③:国会
第41条
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
AIによって(間違える可能性を排除しきれないとしても)政治家より正確な判断ができるかもしれない。しかも、公正である。賄賂などをすることはない。今後、AIの発展に伴いAIの判断に沿って予算や立法などをしたほうがよいという声が上がってもおかしくない。そうした際に、国会は国権の最高機関といえるだろうか。
テーマ④:選挙
第15条
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
日本では国民の投票により、国会議員などを選んでいる。しかし、AIにより個々人に政治的プロパガンダが埋め込まれる可能性も否定できない。現に2016年のアメリカ大統領選挙では、こうした問題の片鱗が起きている。
選挙は民主主義の根幹をなす大事な制度で、国民の意思を反映する場であるが、AIの進化により、本当に私たちが自分たちの意思を表示しているのかと問われると難しくなっていくかもしれない。
日本においても、AIを選挙活動に使うことの是非について考える時が来るかもしれない。
テーマ⑤:国民主権
第1条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
天皇についての規定であるが、この第1条は「国民主権」を記した条文である。
先ほどの選挙でAIのアルゴリズムによって国民の意思というものが揺るがされる事態になっていくかもしれない。そもそも、選挙をしたからと言って正しい判断になることはあまりないといってもいい。全体主義であったりポピュリズムを支えてしまったのは民衆の力である。AIのほうが間違いはあるにせよ正しい判断をしてくれるのではと多くの人が思ったとしても無理はない。そうした時に国民主権は維持できるだろうか。
テーマ⑥:プライバシーの権利
AIはその性質上、多くの情報、個人情報を収集したほうが予測の精度が上がる。つまり国民のプライバシーの権利とAIの能力向上のトレードオフ関係にある。こうした際に私たちのプライバシーの権利はどのように守られるべきなのであろうか。むしろ、プライバシーをあきらめてAIに”貢献”すべきなのだろうか。
テーマ⑦:国民の平等
第14条
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
AIの分析結果は、どれだけ細分化しても結局はその人の属性によって判断することは先ほど説明したが、属性として判断してしまうということは、差別を生む可能性がある。
〇〇という属性がある人の再犯率が高い傾向にあるとAIは予測をはじき出すかもしれないが、その結果その人への監視が強まったり、周囲からの差別意識を生むかもしれない。
また、AIは過去の学習を誤って学習した場合、差別の再生産を犯してしまう可能性もある。傾向性によって物事を判断することは今の私たちもしてしまっているが、よりこうした見方が強化されたり、新たな差別意識を生んでしまう可能性も排除できない。
また、貧困層がスマホなどの端末を持っていないとして、AIに情報が渡らないという状況がある場合、AIの判断にそうした人が反映されず不利益を被る可能性がある。
こうした中、中国においては、AIのスコアが様々なところで使われており、低い数値が出た人が不利益をこうむり、そこから抜け出せないという悪循環が生まれる、バーチャルスラムという現象が発生している。
日本においてもJ.ScoreというAIスコアによって、貸付金利が変わるというアルゴリズムが導入されている。
今後AIの活用によって人間の平等は達成されるのか、拡大・固定されれうのかは注意深く見守っていく必要がある。
テーマ⑧:自己決定権
AIの普及により多くの人がAIを使用するようになった社会において、AIに関与しない道を歩むことを決断することはできるだろうか。AIに情報を提供しないと、アルゴリズムの外にはじき出されることを意味し、不利益を被る可能性もある。そうした中で、AIに関与しないという自己決定が可能なのか。
また、AIの判断に従うのが当たり前だとする社会の「風潮」が生まれる中で、AIに従わないという自己決定が尊重される社会になるかどうかも気になるところである。
■まとめ
AIの発展は、このような近代憲法の暗黙の前提となっていた人間中心主義を根底から揺さぶる可能性がある。人間というものは何であるのか、今一度問い詰める必要があるのかもしれない。
AIに人格を認めるべきなのか、統治をどこまでAIにゆだねるべきなのか、プライバシーとAIアルゴリズムのトレードオフはどうすればいいのか。考えるべき課題は多いと感じた。
かなり乱雑な文章・展開になってしまったが、そこはご容赦いただきたい。詳しくAIについて知りたい方は、以下の書籍を参考されたい。