「この本を盗む者は」深緑野分著
冒頭数ページからあれよあれよと、「千と千尋の神隠し」の世界に飛び込むような。ある条件をきっかけにして本の世界に迷い込んでしまう展開は、一時流行った異世界転移ジャンルのような雰囲気もある。日常と隣り合わせの不思議なセカイは、何歳になっても読んでいて心躍るものだ。
とにかく本に囲まれる内容なので、読書好きの人や、書き物が好きな方、趣味にしている方が読むと、ぐっとくるものがあるのではないでしょうか。終盤は特に。初めて自分で物語を書いてみた時のこと。きっと思い出して、初心にかえるような気持ちになれる。
主人公の成長、そして終盤の鮮やかなタイトル回収。冒険の終わりは少しだけ寂しく。長編の醍醐味です。
特に印象に残った一文を引用します。主人公深冬の相棒、真白が言ったセリフ。
深々と刺さってくる言葉だなと。時代によって様々なものが禁止されたり制限されたりする。それは当然易々と決まって良いものではない。…今の世の中、それが本当にちゃんと考えられているだろうか? 常に心に留めておきたいと思いました。
これはたまきが御倉館に一般人が入ることを禁じたことで、読長町の人々が不満を募らせたことにも通じている。
それから、深冬は時折、重要な記憶や真白のセリフを気にするのですが、スピーディーに進む冒険の中で丁寧に考える余裕もなく、断片的なままでページが進んでいきます。最後にようやく全てがつながって解決、となる。
人の話によく耳を傾けること。自分の脳みそでよく考えること。全編を通して読み手に訴える、忠告であるように感じました。
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