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「言葉は君を傷つけない」夏凪空著

「言葉の扱いは難しい」。
 言葉を発端とした炎上や喧嘩が(特にSNS上で)しょっちゅう勃発する昨今、そう感じてる人はとても多いのではないかと思われます。今回読書感想を書く著作は、上記のような現状をひもとき、ライトなエンタメに昇華していると捉えられる作品です。

 言葉にまつわるとある能力に苦悩する「弟」が主人公のお話。正反対の能力を持つ「兄」と時に喧嘩をしつつ、協力し合い、4つの事件を解決していきます。次第に明かされていくのは兄弟間に横たわる複雑な家庭環境。4つの事件を主軸にしながら、彼ら個人の問題や関係についてもサイドストーリー的に徐々に進んでいくという、読み応えのある複層的な内容でした。

 夏凪さんの著書に出てくるカラフルなキャラクターたちが交わす、軽妙な会話や、ちょっとした癖は目の前に存在するかのよう。毎度思わず萌えてしまいますが、特に女性はとても魅力的だなと、2冊目を読んで確信しました(『虹のような染色体』の真赤は男の子だけど)。
 智佐さんが……いい!! 物語前半と後半のギャップが本当にもうたまらない。
 そして「智佐だけ違う」という理由は早い段階で察することが出来ましたが、そういう「ちょうどよいお約束」のようなもの。エンタメ性においてとても大事なのだろうと、そんなことを考えました。

 扱うテーマは決して軽くないけれど、読みやすく整えてくれる夏凪氏。のどごしよく飲み込んだ物語が、私の中で大暴れして、たくさんの問いかけを生んでくれます。

「虹のような染色体」も超オススメです。肉体的な性別。精神的な性別。いろいろな「性別」の形で荒波が立っている今の時代に読むべき一冊ではないかと思います。読んだ当時は突飛な設定だと思いましたが、夏季オリンピック開催期間にふとこの本の内容を思い出したのでした。

 性別だけでなく、見た目だって、持てる能力だって、人間は「虹」のようにグラデーションがあるはず。「多様性」という聞こえの良い言葉に惑わされて、忘れがちな大切なことを、思い出させてくれる内容です。

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