【和訳】BTS SUGA、Agust Dとしての復活。寂しさ、人間らしさ、──そして“認められること”と渡り合うために。
このノートは2023年4月7日にBillboardにて掲載されたインタビュー記事を日本語訳したものです。
BTS SUGA、Agust Dとしての復活
寂しさ、人間らしさ、──そして“認められること”と渡り合うために
BTSのSUGAとして──また、ソロ活動の人格Agust Dとしてや、민윤기という名のもとに生まれた人としても──有名なアーティスト。
ラッパー・シンガー・音楽プロデューサー・ダンサー・ファッションミューズとして、さらにはNBAのアンバサダーとしても活躍する彼は、しかし、結局のところ自分は一人の人間であると、聴衆に語りかける。
2023年4月7日の今日は、Agust D(BTSのSUGAがグループ活動ではなくソロ活動で使用している名義)がK-POPスターであるIUとフューチャリングした新曲『People Pt.2』のリリースをもってカムバックする日として記録される。
この曲は、2020年5月にBillboardの「World
Digital Song Sales」チャートでNo.1にヒットした『eight』以来の最新コラボであり、当時同時期にリリースされたAgust Dのミックステープ『D-2』の中の人気曲『People』の拡張版でもある。
元祖『People』が、SUGA自身が他者の目や変化について反芻し瞑想するものであるのに対し、Pt.2は他者とのコネクションを願うものだ。
SUGAの世界が多面的であればあるほど、“寂しさ”というものが彼の30年にとって恒常的なインスピレーションの源となっている。
『People Pt.2』世界リリースの数時間前、SUGAやBIGHIT MUSIC所属のアーティストに日夜を費やすBillboardの国際チームの元に、彼から入電があった。
数人は実際に彼のそばにいたし、また数人はzoomでヴァーチャルに繋がった状態だったが──彼というスターにとって、“寂しさ”だけが、自分自身を探究し、垣根なくより大きな声で聴衆に語りかけるための手助けをしてくれる“神”であり続けた。
デビュー以来、BTSの音楽的アピールは、7人のメタファーや心象を拡張し、国境を越えて伝わる楽曲やダンスの振付からストーリーテリングに共感しやすくさせることで、世界的規模になり続けている。
SUGAの活躍の幅は膨大で、BTSのアルバムのプロデュースは当然のこと、HalseyやJuice WRLD、Epik Highや日本のØMIらとの人目を引くコラボレーションも挙げるとキリがない。
しかし今、彼は、個人的に自身の心を動かしたものを強調し、──自身の適切な外聞を確立させようとしている。
この春夏のソロ活動やワールドツアー、アンバサダーとしての活動やYouTubeコンテンツ等、既に決まっているスケジュールの最中、無駄にしていい時間など微塵もない彼は、生意気にも我々との会話を「ええ、クソほど忙しいので」という言葉とウインクで終わらせた。
『People Pt.2』リリースに向けて彼が取り組み、この内省的なPOP/HIP-HOP曲に至った全てを、お読みいただこう。
D-DAYアルバムに向けての『People Pt.2』、Agust Dのカムバックまで、あと数時間ですね。ソロ名義のAgust DとBTSのSUGAとしての音楽を比較したとき、何かマインドセットに違いはありますか?
SUGA:
全ての音楽は、민윤기という人間によって作られました。なので、正直名義ごとのマインドセットの違いはそれほどありません、──が、それぞれの目的が違うと言えるかもしれません。結局のところ音楽をリリースする際の目標といえば、できるだけたくさんの方に聴いていただくことです。なので、『People Pt.2』は、世間の人々がAgust Dの楽曲をどういう風に受け取るだろうかと考えながら作りましたし、IUとフューチャリングしたのもその理由からです。Agust D名義でこの曲をリリースするのは、ある種のトライアルですね。正直少し(世間にどのような受け取られ方をするか)心配しています。
『People Pt.2(featuring IU)』はミックステープ『D-2』の『People』に付随するもの。このストーリーをIUとともに繰り広げるのに重要視したものは何ですか?
SUGA:
この曲は「個人的に愛するはずのもの」についてのストーリーで、ただ、当初タイトルは『People Pt.2』じゃありませんでした。まあ、『D-2』の『People』は僕も個人的に気に入っていて──僕たち『People Pt.2』の作業をしたのは3年前なんです。で、個人の写真集を出すことになったとき、会社がその時のフォトショットにこの曲のデモバージョンを挿入したため、皆さんが小耳に挟んでしまうことになり。でも、この曲自体は『D-2』の作業をしていたときに完成していましたから、僕は「ああ、じゃあリリースしなきゃな」と思っていました。でも『Butter』や『Dynamite』のことがあったから、出すタイミングがなかったというか。
タイトルについては、当初は韓国語の子音の『ㅁ』を外した『사라(sara)』でした。韓国語で『人々』を意味する『사람』からひとつ子音がなくなった形です。『사라』という言葉の最後にどの子音を持ってきても、『people』を意味する『사람』か、『love』を意味する『사랑』になるかで、発音が同じなので。だから、聴き手が好きな方の子音を当てはめたらいいと思って『사라』にしたかったんですが。でも友人に、人々にはこれは『사라』じゃなくて『살아(sal-ah)』という韓国語で『live』にあたる言葉として聞こえるんじゃないかと言われ、それではうまくないなと思い、最終的には『사람(People)』に決めました。
僕の名義はAgust Dですが、ある人は僕のことをAugust Dと呼び、またある人はAh-gust Dと呼びます。知ってのとおり人々は(Agust Dのひとつの名義ですら)違った風に捉えるのに、(オフィシャルでソロ活動を行うためには)SUGAとAgust Dという人物をシンクロさせないといけない。ということで、この曲は言うなればそのシンクロのための曲です。僕たちはこれまでのミックステープと今回の公式ソロアルバムの橋渡しが必要でした。そして、そのシンクロを実現するために、僕はとても大衆的な曲を作らなければなりませんでした。ミュージックビデオについてはそこまでの意図はありませんでしたが。──そこに、IUが本当に重要な役割を果たしてくれました。これほどPOPに寄せたジャンルでいくと、この曲は僕はベストを尽くせた方なんじゃないかと思います。
『People』と『People Pt.2』との2曲間にシンクロは実現したとしても、曲のテーマや歌詞は全く異なりますよね? 『People』は内省的で他者の判断を精査するような内容ですが、『People Pt.2』は他者とのつながりを求め寂しさと戦うような印象が。あなたの心の中ではどのように違いをつけていますか?
SUGA:
過去に──これはインタビューを受けるたびに言うことなんですが──個人的に、現代社会において“寂しさ”は常につきまとうものだと思っています。僕はインタビューでいつも“寂しさ”について語りますが、悲しいことに何故か最終的なインタビュー記事には残りません。僕だけじゃなく、誰もが死の今際まで胸に“寂しさ”を抱えています。どんなに深い関係性があろうと、どんなにたくさんの人々と縁があろうと、どれだけたくさんの友人に会おうと、どれだけ頻繁に家族の顔を見ようと、僕たちはいつも身の内に“寂しさ”を備えています。
それで、僕は3年前に“寂しさ”というキーワードから始めてみました。すると、皆さん誰もが感じている痛みや苦しみって、そう変わらないんじゃないかと思って。僕だって同じです。BTSのSUGAだろうが、민윤기だろうが、Agust Dだろうが、皆さんと同じ“寂しさ”をいつも抱えています。人々は僕を、何の悩みも心配事もない、苦しみとは無縁の人だと思うかもしれませんが、僕もこのような感情は抱きます。僕だって、そういったものと戦い克服する道を、見つけようとしているんです。
今回のアルバムには、これらのどのメッセージを決定づける要素もありません。なので、もしかしたら『Pt.3』が出るかもしれませんね。これからの僕たちが言えることがあるとすれば、「(“寂しさ”と自分たちが)お互いを嫌いあわないで、(うまくやれる)道を探そう」かな。
良いですね。──さて、ドキュメンタリー『Road to D-DAY』の中でも、音楽を辞めたいと思う瞬間がたくさんあると話していますね。でも、皆で集まれば楽しくやれることに気づく、とも。このことは『People Pt.2』のテーマと結びつきますか?
SUGA:
これはまた難しいトピックかと思います、だって僕は11〜12歳から音楽や詞を作り始めたから。その頃から始めて、今や30歳です。『People Pt.2』や今回のアルバムを作るのは簡単ではなかったですが、人々はこれに関する全体的なプロセスを知りません。僕は人生の半分以上を音楽を作って過ごしてきましたが、──ジェフさん(インタビューアー)、あなたなら分かってくださると思って話してますが──僕たちがK-POPシーンに参入したころ、僕たちはミュージシャンとしてもアイドルとしても受け入れられない曖昧な立ち位置にいました。でも、僕の近くにいるミュージシャンたちは、僕が音楽に対して本当に真剣で誠実で、それこそが僕の自然体なんだと知っています。
それで、僕はこのドキュメンタリーを、こういうプロセスを捉えてお見せしたいと思って始めました。最初はプロデューサーや作詞家としてのSUGAをお見せする目的でしたが、最終的にはこのアルバムに関する制作過程のような世界観になりました。できるだけ僕は飾りっけのない個人的な自分の姿をお見せしようとしたんですが、アイドルなので、たくさんのシーンが編集でカットされました。最終作品には残ってませんが、本当はもっとナチュラルなシーンやとても良いなと思うシーンがありましたよ。ドキュメンタリーや『People Pt.2』は、人間としての민윤기の自然な姿をお見せしようとしています。僕はこういう人間らしい人だということを表現したかった。僕は、ただの人間なんです。
いつか(このドキュメンタリーの)ディレクターズカットを出してください。さて、D-DAYやドキュメンタリーの公開が近づく中ですが、今週の『D-2』と『Agust D』の世界配信についてもお祝いさせてください。僕の好きな曲、James Brownの『It's a Man's Man's Man's World』をサンプリングした『Agust D』もストリーミングに加わりました。J.ColeがどのようにBTSの『Born Singer』にサンプリングを認めたかについてはシェアしていただきましたが、James Brownとのプロセスについては何かシェアできるものはありますか?
SUGA:
『Agust D』をリリースしたのはすごく若い頃だったので、いま聴くと青臭く響きます。──よく聴けば音やラップが全然体系づけられてなくて。当時の僕はたくさんやりたいことがあったんですよね。とにかくタイトに迅速にやり続けてた。でも、そうやって多種多様な音楽をやってみて思うのは、皆さんが昔の曲より最近の曲の方を愛してくださっているということ。つまり、(逆説的に言うと)ようやく人々が当時の曲を認知し始めてくれてるところだと思っています。そのミュージシャン(James Brown)は実際にもう亡くなっているので、このことを公にしようと決めたのはご家族だったと思います。
同じことが『Born Sinner』にも言えて、──そのミュージシャン(J.Cole)自身がどういう考えを経たかは分かりませんが、単純なことです。僕自身も、ようやく(ずっと存在が曖昧だった)BTS・민윤기・SUGA・Agust Dがミュージシャンとして認知されてきたように感じています。いえ、僕の音楽はそんなにポピュラーじゃないので、今より幅広いオーディエンスに受け入れられるとは思っていませんが。それでも、僕たちが世間にミュージシャンとして認められてきたからこそ、このようなことが世間に対してクリアに語られるようになってきたと感じています。