マイフェイバリット・ブックス・オブ・2023
日ごろは古本を読むか、図書館で借りてばかりいるけれど、最新刊は本屋で買うようにしている。
そうはいっても、奥付を確認してみると今年刊行された本を読んだのはたったの7冊だった。
『文学キョーダイ!!』(著・奈倉有里・逢坂冬馬)
『滅ぼす』(著・ミシェル・ウェルベック)
『欲望の見つけ方』(著・ルーク・バージス)
『マルクス 生を呑み込む資本主義』(著・白井聡)
『さみしい夜にはペンを持て』(著・古賀史健)
『ママはキミと一緒にオトナになる』(著・佐藤友美)
『神になりたかった男 回想の父・大川隆法』(著・宏洋)
この中では『文学キョーダイ!!』が印象に残っている。文芸界の新星である奈倉さん(ロシア文学翻訳者)と逢坂さん(小説家『同志少女よ、敵を撃て』)が実の姉弟で、二人が幼少期から現代の世相まで縦横無尽に語り尽くした一冊である。ぼくはたまたま二人の著作を読んでいたけれど、姉弟であることはまったく知らなかったので、驚きながらも楽しく読んだ。まるで『耳をすませば』の主人公・月島雫の一家のような家族だった、と語る二人の学齢期の様子は、とても眩しく映った。
新刊が出るたびに買うミシェル・ウエルベックは、上下巻に及ぶ彼の最大の長編小説だった。あいかわらず文章が巧い。翻訳も見事。しかし内容としては話があちこちに散逸し、文章の読み応えはあるものの、物語としてのまとまりは乏しい。それでも最後まで読ませてしまう力業に、かえって凄味を感じたとも言える。
この数年間で刊行された本の中では、ジェンダーに関する入門書を興味深く読んだ。
『これからの男の子たちへ』(著・太田啓子)
『ぜんぶ運命だったんかい』(著・笛美)
『武器としての国際人権』(著・藤田早苗)
特にこの3冊は強く印象に残っていて、今年手にとれてよかったと思えた本だ。
ジェンダーの話は必ず人権の話に接続される。男性である自分が無意識に「普通」でいることの危うさ(有害性)について、静かに指摘してくれる。ジェンダー意識と基本的人権の両輪を、きちんと2020年代の“常識”にアップデートできているかは今後あらゆる場面で道を分けるような気がしている。(というよりも、これからさらに先で起こる変化に対応できる準備ができているかが問われてくることだろう)
来年は、できればもっとストレンジな本も読んでみたいと思う。あまり誰も読まないような本をなるべく粘り強く読んでみたい。