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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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#お金について考える

お金がない楽しさ

お金なら余っている。 昔から努めて、そう口にしていた。 決してお金持ちだったのではない。 欲しいものが多くなかっただけだ。あるいは欲しいものが高くなかったのだ。 20代は実入りの少ない会社員だったが、仕事に忙殺されてプライベートな時間がほとんどなかったので、お金を使う機会もなく着々と貯金ができた。同僚からは不思議がられたが、なんのことはない、プライベートライフが皆無だっただけだ。 失ったものも山のようにある。飲み会や恋愛経験や海外旅行などの人生経験は若いころにもっと積んで

通貨を使わない生活

円安が進行している。食品の値上げも相次いでいる。コンビニでパンでも買おうとすれば、気づけば200円近い値札がつく。 ハイパー・インフレーションへの備えについて先日簡潔に綴ったが、今日はまたその続きを考えたい。 「救命胴衣」としての「外貨準備」を推奨したけれど、これはあくまでも最低限度の備えにすぎず、救命胴衣をしているからといって海上に放り出されても「ふつうの暮らし」を保てるわけではない。カタストロフから一命を取りとめたあとには、いったいどんな生活が待っているのか。 それは

通貨が死ぬときに

家人が寝静まった深夜、隣りの部屋で窓を開けて扇風機を廻し、手許の灯りだけ頼りに、音を立てないようにキーボードをゆっくりと打つ、この時間が好きだ。 街は物音ひとつせず、扇風機の旋回する音だけが耳を掠めている。深夜の米連邦公開市場委員会の会見を控えたニューヨーク市場の為替相場をスマートフォンで時折見遣りながら、100年前のドイツで起きたハイパー・インフレーションを思う。 「手押し車の年」と呼ばれることになる、世界史に残る一大経済危機である。大量の紙幣を手押し車で運ばないとパンを