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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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#散歩

猫は「かわいい」の一点突破で生きる所存

妻の最大の才能は散歩中に猫を発見する能力だと思う。 路地を歩いていると、「あ!にゃんこ!」と妻が叫ぶ。 その声に驚いてぼくが眼を凝らすころには、猫はどこかに去り、先ほどと何も変わらない路地が取り残されている。 あの道をよぎったの!と妻は遠くの彼方を指差し、身の潔白でもはらそうとするかのように力説する。ぼくも妻を疑っているのではない。ただどこにも見えなくて困惑しているのだ。 たまに猫が舞い戻り、目の前に現れることがある。彼女は「にゃあご」と声真似をし、猫を呼び寄せようと試み

散歩論

散歩は、最も小さな旅である。 と誰かがいった。(というより、ぼくが今考えた) ぼくは散歩が好きなのだけど、それは体力増進や気分転換のためというより、純粋に考えごとをするのに適しているからだと思う。 一人で散歩するときは思索に適しているし、二人で散歩するときは話し合いに適している。 (「歩く」という行為と、「考える」という行為はつながっているとぼくは思うのだけれど、きっとこのマインドフルネスについては古今東西の研究者が解き明かしてくれていると期待したい) 物理的には最も小さ

ちょっと散歩しないか

スティーブ・ジョブズの妹がニューヨーク・タイムズに寄稿した弔辞の中で、生き別れの兄(スティーブ)と成人後に初めて会ったときの様子を回想するくだりがとても好きで、折に触れて思い出す。 ジーンズ姿の軽装で現れたスティーブは、初対面の妹に対して開口一番に言う。「ちょっと散歩しないか」 スティーブは30歳、妹は25歳。時は1985年、ニューヨーク。二人はたまたま散歩が大好きで、その日は長い散歩を通して「私たちはお互い友達に選ぶタイプの人だな」と感じたという。 https://ano