ちょっと散歩しないか
スティーブ・ジョブズの妹がニューヨーク・タイムズに寄稿した弔辞の中で、生き別れの兄(スティーブ)と成人後に初めて会ったときの様子を回想するくだりがとても好きで、折に触れて思い出す。
ジーンズ姿の軽装で現れたスティーブは、初対面の妹に対して開口一番に言う。「ちょっと散歩しないか」
スティーブは30歳、妹は25歳。時は1985年、ニューヨーク。二人はたまたま散歩が大好きで、その日は長い散歩を通して「私たちはお互い友達に選ぶタイプの人だな」と感じたという。
https://anond.hatelabo.jp/20111031223226
自分の中で勝手に想像を膨らませているので仔細は違うとは思うけれど、「ちょっとお茶しようか」とか「飲みにいこうか」ではなく「ちょっと散歩しないか」というのがひどく洒落ていて気に入った。今もぼくの脳内ではセントラルパークを歩く二人の姿が目に浮かぶ。
引き合いに出すのも気が引けるが、ぼくと妻も散歩が大好きで近隣をよく歩く。
手ぶらで、歩きやすい靴を履き、さしたる目的地もなく、気の向くままに歩く。歩きながら長い話をする。
家の中で向き合って話す事柄とは、たぶん違うことを話している。同じ方向を見ながら歩幅を合わせて歩くからこそ話しやすい事柄もある気がする。話しながら深く潜行するようなときもあり、気がつくと黄昏が薄闇に染まり、ずいぶん遠いところまでたどり着いている。
ずっと昔、独りで散歩していたころ、いつか一緒に散歩ができて話が弾む人が隣りにいてくれたらどんなに幸せだろうと思っていた。