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殴り書き 或いはラブレター 10
喉から手が出るほど手に入れたいものが、絶対に手に入るわけではないという実感がなかったのかもしれない。人に好いてもらうことを手に入ると表現するのはいささか乱暴だけど、それほどまでに君に愛されてみたかった。思い通りになんてならない。ほんとうにその通りだ。
私の好きな人は君だけど、君の好きな人が私じゃない。よくある話。よくある話が、自分のことになるとこんなにも痛い。君と過ごした季節は夏だったから暑さに君の気配を感じて苦しかった、やっとすっかり秋が来て少し楽になれる、気持ちが切り替えられると思っていたけど寒くなってきたらそれはそれで寂しいことに気付いてしまった。寂しい。暇。なんか彼氏とか欲しいかも。最初はそれだけだった。7月の私は人で寂しさを埋めることに頼ってしまったから選択肢に誰かに寄りかかることが追加された。失策だった。堂々巡りに塞ぎ込んでそれっきり立ち直れなくなった。
思えば昔からこうだった。クリスマスプレゼントに目星をつけるときも誕生日プレゼントをねだるときも妥協できず我儘を言って拗ねた。好きな人が女の子と話しているだけで悔しくて涙が出た。好きな俳優に恋人がいたときもなんだか私のものが横取りされたような気がしてひどく惨めでもうびた一文お前に金なんかかけないと憤慨した。欲深い子だ、と父方の祖母はよく言っていたらしい。本当にそうだと思う。欲しいものは欲しい。好きな人が私を好きじゃないのが許せない。私のために誂えたような世界が欲しくなってしまう。よく気にかけてくれる恋人は支配欲が滲んでいるモラハラ気質、という旨のつぶやきを見て、私だ。と思った。心配してると言いつつ全てを掌握したくてたまらない、大嫌いな母に似ている。結局私も頭がおかしいんだと思う。だからこのどうしても手に入らないものがあるという体験を身を以てするべきだったし、今の状況は我儘のツケが回ってきた結果だ。
寒さに負けて君のストーリーをひさしぶりにみてしまった。釣りをする女の子が映っていた。死にたくなった。強欲のあまり。