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NHK100分de名著 有吉佐和子「恍惚の人」認知症の家族とその介護

こんにちはあけぼの診療所です。
NHK Eテレの毎週月曜午後10時25分より放送されている有名な書籍を25分×4回で紹介する番組「100分de名著」にて有吉佐和子の「恍惚の人」が紹介されました。
本書は、今でいう’’バリキャリ‘‘女性が認知症を患った舅(しゅうと)を介護する話。主人公昭子は銀座の法律事務所で働きながら離れに住む舅を介護します。「ばあさん(姑)がなかなか起きなくて。まったくばあさんはいつまで寝ているんだ」と離れに行くと、すでに亡くなり冷たくなっている姑がいました。ほかには夜中にトイレに行きたいからと外から扉を叩き起こされ離れのトイレに案内しようとするも、間に合わず庭で小便をするなど…
本書は認知症が悪化する舅の様子が詳細に描かれているほか、それに対し、昭子の旦那と息子のそれぞれの言動も描かれています。
昭子の旦那は昭子に対し「申し訳ない、ありがとう」の一点張りで仕事を理由に手伝う気配はありません。昭子はその謝罪と感謝の言葉に、手伝わないうしろめたさをただ謝罪と感謝でごまかしていると、怒りや嫌悪感を感じるのでした。
18歳になる息子は「いやだなぁ。こんなにしてまで生きたいものかな」「パパも、ママも、こんなに長生きしないでね」と語る場面や、その後、舅が亡くなり、葬儀が終わったときに昭子に「もうちょっと生かしておいてもよかったね」と他人事のように言います。
家族の老いを前に、それぞれの思いが鮮明に描かれ、介護をしたことない人にとっても自分事のように考えさせられる本書は、「老後」「介護」「生死観」「哲学」などの要素があふれ、考えさせられます。

家族の老いは受け入れがたいもの

SNSである投稿が話題になっていました。それは「What is the hardest thing in your life. Watching my parents getting old」=「人生においてもっともつらいことはなにか。それは親が老いていくことをみること」との投稿です。年齢とともにいうことを聞かなくなる身体、昔できがことができなくなる感覚は喪失感があります。そして幼いころ、親を信じ頼りにしていた人にとって、親が弱っていく姿をみるのは精神的につらいでしょう。
訪問診療において、その現実をなかなか受け入れられないご家族に多数出会いました。
対照的に昭子の息子のように、長生きすることが必ずしも幸福(もしくは美徳?)ではないと感じる人にもお会いしました。

時間の流れは平等

多様な価値観を認める現代において「親の介護は子供の務め!」「女性が家族のために介護するべき!」といった主張はしません。そういった社会的バイアスを除いても確実に言えることは「人は必ず老いる」ということ。
「恍惚の人」が出版された1972年、介護サービスや社会福祉制度も充実していませんでした。しかし現代も課題に感じられる描写が多いことから、今もなお読み継がれているのでしょう。
患者さんのご家族でも、お仕事をしながら介護されている方がいらっしゃいます。皆さんさまざまで、時に疲れてもう無理かもしれないとのお話を伺うこともあれば、昭子の息子のようにどこか他人事のように言う人、熱心なあまり現代医療ではまだ難しいことを要求される方もいらっしゃいます。

今回は認知症とその介護、かかわる人の心情をリアルに描いた「恍惚の人」を紹介させていただきました。超高齢化が進む現代で、両親の老いとその向き合い方などで心の準備ができる書として、個人的に気になり紹介させていただきました。
あけぼの診療所 広報


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