くりかえし
という記事で紹介したラヴィーン博士の『トラウマと記憶』という本を、ようやく読破しました。
途中まで読んで多くの発見があったので、わかった気になって放置していました。
しかし最後の章は、良い意味で期待を裏切られました!
なんと『手続き記憶』の影響は、5世代ほど後まで継続するということが、ラットの実験結果でわかったというのです。
ある国で運動能力を鍛えられたラットが、全く別の国で生まれたその子孫のラットに受け継がれたというのです。
アスリートの遺伝子などと言いますが、遺伝子の中に祖先の『手続き記憶』が受け継がれるのかもしれません。
これは運動能力の高さのようなポジティブな手続き記憶だけでなく、失敗体験や恐怖体験に対する逃走や闘争の反応などネガティブな手続き記憶にも言えるのです。
先祖のトラウマが次世代に引き継がれる。
ということは、過去に戦争や内乱や災害を体験した国には、そのトラウマ体験を引き継ぐ遺伝子が蔓延しているということになります。
この章を読んで、私が受けた被害の原因に、単に母の性格だけに収まらない深刻なものが関わっているのではないかと思いました。
母は戦後すぐの生まれですが、祖母は母の前に女の子を生んでいます。私には伯母に当たります。伯母は結局、終戦前に赤痢に罹って亡くなっています。
伯母が生まれたのは戦争中で、祖父は出征中。祖母はひとりで乳飲み子を抱え、祖父の親類の家に疎開していました。
そこで祖母が間借りしていた納屋が漏電で火事になってしまいます。
その火事は祖母の失火だと放火の容疑をかけられて祖母は何日か警察に拘留されたそうです。
出産間もない身体で、乳児から引き離されて警察に拘留……どれほどつらかったことでしょう……。
その後、祖父が帰るまえに幼い伯母を病気で亡くしたのです。
祖父は出兵中の話を、孫には面白おかしく語っていました。
「戦争に行ったものの、山で根っこばっかり掘っていた。そうしたら戦争が終わって助かった!」
当時は、飛行機の燃料に松脂などが使われたというから、根っこを掘る部隊もいたのかもしれないと祖父の話を信じました。
「おじいちゃんは運が良いんだね!」などと話していたのですが……。
最近になって私は、ツィッターで、南洋の島でアメリカ兵が撮ったという餓死寸前の日本兵の写真を観たのです。骨と皮だけになった4人の日本兵のうちの1人は祖父にそっくりでした。
祖父も祖母も、戦時中のことは、『面白エピソード』のように軽く話していたので、幼い頃はそこまで深刻に捉えていませんでした。
大人になってよくよくその状況から想像してみると、深刻な人間不信や無力感を抱えてもおかしくないほど残酷なことがわかりました。
身内に放火を疑われて何日も警察の尋問を受ける若い祖母。
生まれたばかりの我が子を誰にも知られることなく1人で看取る若い祖母。
戦う力も残っていなくて、南の島で木の根っこを食べて死を待つだけだった若い祖父。
虚しい戦争に駆り出されて、一度も我が子に会うことができなかった若い祖父。
トラウマとは、その痛みを無いものや軽いものとして潜在意識に押し込んでしまった時、深刻なのに修復が難しい無自覚な傷となってしまうのだそうです。
祖父母だけでなく、戦時中の日本人は、ほとんどの人がこんな体験をしていると思います。
あまりにも異常な世界だっただけに、それが痛いのかどうなのかさえ、わからなくなってしまったのだと思います。
また痛みを感じていたとしても、「あの人の方がもっと大変だから」と思えばそれを口に出すことすらできなくなります。
そうやってほとんどの日本人が、戦争で受けたトラウマを自覚しないように、潜在意識に押し込んできたものと思われます。
しかしそれだけ酷い目に遭って、誰のせいにもできなかった時、それは自分や他人への膨大な不信感となって心の奥に溜まり続けるのです。
これが『人を疑う』『自虐的な方向に自分を追い詰める』手続き記憶となって、次世代は受け継がれていたとしてもおかしくありません。
占いによって、母が前々世で人を呪い殺すような仕事をしていたということが分かり、母が祖母にそのような力があったと話していたことを思い出したのですが、もしかしたら、その力というのは、祖母の記憶にあったものなのかもしれません。
複雑に入り乱れる様々な人のカルマ、トラウマ……
戦争という大変なトラウマを国ごと抱えている日本という国は、流されるままでいると、過去の手続き記憶によって、憎しみ合い殺し合うような方向に進んでいってしまう危険性があるのかもしれません。
その証拠に、若者の自殺、いじめ自殺、虐待死、無差別殺人、その遠因となる様々なハラスメントなど、人の心を蝕むような問題が年々増えていっています。
ラヴィーン博士は、潜在的に繰り返してしまうトラウマからの自虐行為や破壊行為を、新しくポジティブな行為と成功体験によって克服していく必要があるとしています。
毒親に育てられて、大変な被害を受けた。
それを自覚することと、
本来自分には大きな力が備わっているのだけれど、被害を受けたことによってそれを発揮できなかった。だから被害の無いところでもう一度発揮してみよう!
と決意すること。
そうやってポジティブな力を身につける人が増えていけば、戦争のトラウマに侵されたこの国が、良い方向に向かっていくかもしれません。
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